不惑は「惑わず」ではない…?

儒教の祖である孔子は『論語』の中で、「四十にして惑わず」と言っていますよね。さすがは孔子、四十歳で迷いがなくなったんだ。自分も迷いなく生きなくちゃ……。40歳になると人はそう解釈しがちです。

でも、いま発見されている資料をリサーチしてみると、孔子が生きた時代には、「惑」という漢字は存在しないんです。となると、口承されてきたものが時代を経て文字化する時に、たまたま当てはめられた漢字である可能性が高い。

「僕の漢字リサーチによると、孔子が生きた時代に、じつは『惑』という漢字は存在しないんです」

孔子の時代に存在したのは、「惑」ではなく、「或」という漢字です。これは、「区切る」という意味。つまり、孔子は「四十にして区切らず」と言ったと、考えられるのです。

40歳くらいになると、自分はこんな人間だとか、自分にはこれは関係ないとか、まわりに柵を作って区切り始めますでしょう? 孔子はそんなものを排除して、もっともっと、いろんなことをしなさいと言った。それをやることで、自分の本当にやりたいことが見えてくると。

でも、いわゆる「自分探し」なんかしてはいけません。それもまた、最初から自分を、制限し区切ることですから。

書店で一度も行ったことのない棚へ行く

こうして「不惑」をやる時に、大事なキーワードは「博学」です。

まずお勧めしたいのは、大型書店に行くこと。店内を見渡すと、まず自分が行かないフロアや棚がありますね。あえてそこに行き、ちょっと気になった薄い本を1冊買う。読んでみる。多分理解できない。もう1冊買う。こうして3冊くらい読むと、全く興味がなかったはずの世界が見えてくる。そういう風にして、興味のない棚をどんどんなくしていく。

無関心でいた棚にも、必ずワクワクする本があります。

じつは僕、娘が小学5年の頃に離婚し、シングルファーザーになったんです。娘のために僕が料理を作らなくちゃいけないのですが、料理に全く興味がないので、ほぼ外食でした。ところが最近になって、これまで行ったことのない書店の棚の中で、土井善晴さんの一汁一菜の本と出合うんです。おや? これはなんだか面白そうだと引かれ、料理を始めたわけです。すると、とっても楽しい。大切なことは、読むだけではなく実践すること。

博学とは何でも知っていること、ではない

博学の本来の意味は、なんでも知っていることではなく、一本ずつ田んぼに苗を手で植えていくこと。

博学の「博」という字は、もともとは田圃の「圃」が右上にありました。下の「寸」は手を表すので、稲を手で植えるという意味。一つひとつ植えていきます。また、「学」の昔の字は「學」で上の両サイドにあるのが手、中央にある2つの「メ」が「まねる」を意味します。師が弟子の手足を取りながら教え、まねをさせることが「學」。

つまり一つひとつ着実に学んで実践し、初めて「博学」になるというわけです。近ごろはネットでも多様な講座が受けられます。全く興味がないジャンルの講座を受けてみるのも手。でも、自分がワクワクするものしか選んではいけません。

僕は昨年、コロナの影響で舞台がなくなった期間、Unity(ゲーム開発プラットホーム)のプログラム言語をネットで勉強しました。もともと3DCGは作れるんですが、VR空間も自分で作れるようになろうと思って。やってみると簡単にできるようになるんですよ。それも授業料2000円とか3000円とかで。

ね、ワクワクしますでしょう?

孔子は、「五十にして天命を知る」と書いています。まだ自分が何をしたいか見つからないという人は、当たり前。

だって、孔子ですら五十ですから!

安田登
下掛宝生流ワキ方能楽師。1956年千葉県銚子市生まれ。高校時代にマージャンを通じて甲骨文字に目覚め、大学では中国古代哲学を学ぶ。高校教師を経て25歳で能の世界へ。3DCGや風水、エイズなど多様なテーマの著作は40冊超。現在は国内外で能のメソッドを使った作品の創作、演出、出演などを行うかたわら、論語などを学ぶ寺子屋「遊学塾」を各地で開催。近著に『野の古典』(紀伊國屋書店)、『身体感覚で「論語」を読みなおす。』(新潮文庫)、『すごい論語』『あわいの力』(ミシマ社)など。

(取材・文 さくらいよしえ、写真 鈴木愛子)

[日経xwoman 2021年1月4日付の掲載記事を基に再構成]

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