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ナショジオスペシャル

2021/3/28

ナショジオスペシャル

カールトン大学のピチル氏は、「生産的な先延ばし」というのは矛盾した表現であるだけでなく、人間が悪徳を美徳に変えようとしている一例にすぎないと考えている。

一歩を踏み出すことに意識を集中

先延ばしは手ごわい相手だが、そのわなに陥るのを避けるためにできることはあると専門家は言う。

研究では、マインドフルネス(意識を今に集中させた心のあり方)やセルフコンパッション(自分に思いやりを持つこと)の実践が、先延ばし問題への対処に効果があることが示されている。これはおそらく、そうした行為がネガティブな感情の克服を目指しているからだろう。

18年に学術誌『Mindfulness』に掲載された研究において、科学者らは、自らの過ちやその他の個人的な失敗を認め、それについて自分を許すことができる人は、先延ばしをする可能性が低いことを発見している。同様に、20年に学術誌『International Journal of Applied Positive Psychology』に掲載された研究では、短時間でもマインドフルネスのエクササイズを実践した人は、タスクに取り組み続ける傾向が高いことがわかっている。

より実用的なレベルにおいてピチル氏が勧めるのは、プロジェクト全体を完遂しようと自分に過度の負担をかけるのではなく、できるかぎり心理的なしきい値が低い次の一歩を見極めるというやり方だ。たとえささやかでも一歩を踏み出すことに意識を集中すると、関連する感情ではなく、行動に注目することによって脳をだますことができる。

ジョージメイソン大学のマイナー氏は、先延ばしに悩む人々に対するアドバイスとして、過去にどんなことで自分が生産的になれたかを把握することを勧めている。マイナー氏自身の場合は、「自分がアカウンタビリティを負う相手(自分の行動を報告する相手)を数多く持つこと」が有効だという。だからこそ、数多くの大学では、学生たちのために先延ばしを防ぐことを目的としたアカウンタビリティ・グループを設置している。

「1人で仕事をするのが難しい人は、インターネットでアカウンタビリティ・パートナーを探せるサイトを試してみてく,ださい」と、フィラデルフィアの心理学者ホースタイン氏は言う。「同僚にアカウンタビリティ・パートナーになってもらい、お互いの成功を喜び合い、遅れている案件を改善するための助けを求めるのもよいでしょう」

ホースタイン氏はまた、ToDoリストを整理して優先順位をつけ、完了したタスクに対する報酬システムを構築することによって、自分自身に対するアカウンタビリティを負うようにすることを勧めている。過去の研究では、短い散歩やおいしいおやつといった比較的ささやかな報酬であっても、仕事に集中するためのモチベーションになることがわかっている。

ただし、先延ばしによる苦しみが強い場合は、より深刻な精神衛生上の問題が原因となっている可能性もあることは、複数の専門家が指摘している。「先延ばしは、不安、注意欠陥多動性障害(ADHD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ病などの基礎的な疾患からくる症状または不適応な行為なのかもしれません」と、医師のデサイ氏は言う。「まずは心理学的なテストを含む適切な医学的評価から始めるとよいでしょう」

(文 NICOLE JOHNSON、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2021年3月14日付の記事を再構成]

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