日産の新型ノート 独特な「電動加速感」で操作性向上
2020年12月、日産自動車は3代目となる新型ノートを発売した。ノートといえば、2代目で追加されたハイブリッドシステム「e-POWER」が大ヒットし、18年には登録車販売台数1位にも輝いた。e-POWERはその「電動加速感」がヒットの大きな要因だったと分析する小沢コージ氏。果たして新型はどんな進化を見せたのだろうか。
先代が売れた理由は電動加速感にあった
「なぜ売れたのだろう?」と疑問に思っていたクルマがあった。先代日産ノートe-POWERだ。16年11月、2代目ノートも後半戦に差し掛かったタイミングで追加されたハイブリッドモデルで、ある意味あり合わせの食材で作った「まかない飯」のようなクルマだった。
何しろ、それまで日産のコンパクトカーにハイブリッドはなく、販売面ではトヨタ自動車のアクアやホンダのフィットに置いていかれっぱなし。かといって、エンジンとモーターを協調させて使う高度なハイブリッドをいまさら開発するのもハードルが高い。そんな状況で、半ば苦肉の策のように生まれたのがe-POWERだ。既存の1.2Lエンジンを発電専用と割り切り、ピュアEVである日産リーフのモーターやインバーターを流用してe-POWERと名付けて販売したところ、奇跡の大ヒットとなった。
発売初月からいきなり月販1万5784台を記録。なんと約30年前の人気車サニー以来の、オールジャンル1位を獲得したのだ。正直、燃費ではアクアに、パワーではフィット・ハイブリッドに負けていた。車内やラゲッジ(収納)こそ広かったが、ライバルの全長は4メートル以下なのに、先代ノートの全長は4.1メートル台。スペース効率が特別すごいわけでもなかった。
ではノートの何がそんなに受けたのか。これは、乗れば誰でもすぐ分かる。最大のキモは、独特の電動加速感にあった。アクセルを踏んだ途端、間髪入れずに発進するそのレスポンスは、他のハイブリッドにはないレベルだ。
日産が「ひと踏み惚(ぼ)れ」と名付けたワンペダル運転も面白かった。アクセルオンで加速するのは当然、アクセルオフ時の減速の強さを選ぶことができ、モードによってはブレーキペダルを踏まなくてもそのまま完全停止が可能なのだ。うまく扱えばアクセルペダルひとつで操縦でき、運転感覚は非常に新しい。それが奇跡の18年登録車販売台数1位を呼び込んだのだ。
外装も内装もぐっと優雅に
そんなノートの続編が、20年12月発売の新型ノートe-POWERだ。ノート全体としては3代目、ノートe-POWERとしては2代目に当たる。今世代から通常のガソリンエンジン車を無くし、e-POWER専用車になった。
待望のオールニューモデルであり、先代とは見た目から中身まで全然違う。プラットフォームには、同時期に発売されたルノー・ルーテシアと共通のCMF-Bを採用している。エクステリアはオーガニックで柔らかな面構成を持ち、どこか優雅なフランス車っぽい雰囲気を身にまとう。
ボディーサイズは先代と比べて全長が55ミリメートル、ホイールベースは20ミリメートル短くなり、取り回しが良くなった。ラゲッジ容量はほぼ同等レベルを確保し、リアシートはヒザ前スペースこそコブシ半分ほど減っているが、大人3人が普通に座れる。総じてパッケージに大きな不満はなく、コンパクトカーとして満足いくレベルだ。
インテリアは全体的に上質かつモダンになった。インパネ表皮にソフトパッドは使われていないが樹脂の質感は高い。特に小沢が乗った上級グレード「X」は、シート表皮が本革調で、パイピング加工もなされていて質感が高い。操作機器類もイマドキだ。インパネにアナログメーターはなく7インチのデジタルメーターに加え、オプションで9インチのセンターディスプレーも付けられる。シフトレバーは独特の「お寿司」とも呼ばれる電子式。操作がカチカチと決まってキモチがいい。
予想外の方向へと進化した走り
さて、肝心の新型ノートe-POWERの走りはどうなのか。モーターやインバーターはこの世代から「まかない飯」ではなく、完全新作へと進化。116psの最高出力と280Nmの最大トルクを発揮し、先代比でトルクが10%、パワーが6%向上している。モード燃費も向上し、WLTCモードで最良29.5 km/リッターをマークする。
ところが実際に走らせてみると、意外にも初代ほどビリビリくる電動感はない。アクセルレスポンスは相変わらずいいが、加速感は同等で、何より全体的に滑らかで上質な方向へとシフトしている。
一番驚いたのはアクセルオフ時の減速感だ。3段階から選べるドライブモードと、シフトをDモード、もしくBモードに入れるかで減速度が変わるが、確実に旧型より穏やか。さらにアクセルオフでも完全停止しない。
先代ノートe-POWERは、そのビックリ電動加速感やワンペダル運転で人気を博したのだから、新型はてっきり初代以上にレスポンスを高め、極端な味付けをしてくるかと思っていた。ところが運転してみると、進む方向は正反対。e-POWER独特のフィーリングはしっかり保ちながらも、全体を上質化させる方向に進化した。
この新型の味つけは、長距離乗るとその真価が見えてくる。最初は少し拍子抜けするが、乗れば乗るほど思い通りにクルマをコントロールでき、疲れないことが分かってくるのだ。
e-POWERの奇跡はまだまだ続く
今回の個人的な取材テーマは「e-POWERの奇跡は続くのか?」だったのだが、ズバリ言おう。e-POWERの奇跡は、まだまだ続くに違いない。日産独自の電動感覚の魅力は、より広い層、例えば加速感に敏感で酔いやすい女性や子供などにも受け入れられるように進化しているからだ。
その一方で、今後ライバルの電動化も着々と進む。20年2月に発売されたホンダのフィットはもちろん、今後出てくるだろうトヨタのハイブリッド車も、より電動感を強めてくるのは確実と思われる。
これから、ますます電動加速の「風味勝負」の時代が来る。そう私は予想している。
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は「ベストカー」「時計Begin」「MonoMax」「夕刊フジ」「週刊プレイボーイ」など。主な著書に「クルマ界のすごい12人」(新潮新書)「車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本」(宝島社)。愛車はロールス・ロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
(編集協力 出雲井亨)
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