家計の貯蓄が増えています。新型コロナウイルス感染拡大の影響で消費が減り、余裕資金が貯蓄に回っているためです。この傾向は続くのでしょうか。
総務省の2020年の家計調査によると、2人以上の勤労者世帯の貯蓄は前年に比べ月平均で17万5525円増えました。データを比較できる00年以降では最大の増加幅です。一方、勤労者に限らない2人以上世帯の消費支出は、物価変動の影響を除いた実質で前年比5.3%減りました。緊急事態宣言で外食や旅行などの需要が低迷しています。生活への不安から貯蓄を増やす動きも広がりました。
収入には一律10万円の特別定額給付金効果が表れています。2人以上の勤労者世帯の実収入は実質で前年比4.0%増。上げ幅は比較可能な01年以降で最大でした。ただし、世帯主の収入は同1.5%減りました。
内閣府の調べでは、可処分所得に占める貯蓄額の割合である貯蓄率(季節調整値)は20年1~3月期が5.7%、4~6月期が21.8%、7~9月期は11.3%と高水準です。定額給付金の影響が大きかった4~6月期だけでなく、年間を通して高水準が続いています。過去の貯蓄率をみると、16~18年度は1%前後、19年度は3.2%で、最近の上昇が際立ちます。
東京大学の福田慎一教授は「個人の余裕資金の一部は株式市場にも流れ込み、株高の一因になっている。低迷が続く実体経済とのかい離は大きく、バブルと呼べる状態にある」と分析します。コロナ禍のなか、各国政府は金融緩和や財政出動を加速させて経済を下支えしています。福田氏は「人口の高齢化が進み、社会保障の負担が重い日本が財政出動に頼り続けるのは危険。財政再建、金融緩和の出口の議論を忘れてはならない」と注文をつけます。
家計の貯蓄率は再び低下する可能性が高いとみるのは、日本総合研究所の山田久副理事長です。家計の総収入は増えましたが、賃金はむしろ減っています。「世帯によってコロナの影響には大きな差があり、収入減に苦しむ人は多い」とみています。コロナが収束に向かえば賃金収入が回復する半面、抑制していた消費が拡大するため、貯蓄率は低下すると予測します。
山田氏は、日本の労働市場の流動性を高め、成長産業に人材をシフトするよう求めてきました。成長産業に人材がシフトすれば賃金の上昇を期待できます。ところが、コロナ禍で企業にとって雇用の維持が優先課題となり、労働市場改革の動きは停滞しています。足元のコロナ対策に加え、中長期をにらんだ労働市場改革にも同時に取り組むべきでしょう。