茨城県南部に位置する龍ケ崎市。筑波山を望み、市の北西には「うな丼」発祥の地と言われる牛久沼が広がる。だが、今回の主役はうな丼ではない。
「な、何だこれは!」
JR常磐線・龍ケ崎市駅(2020年3月に「佐貫」から駅名変更)で下車し、すぐ近くの関東鉄道竜ケ崎線「佐貫」駅から市中心部の「竜ケ崎」駅へ向かう1両編成のワンマン電車に乗り込んだ途端、度肝を抜く光景が現れた。電車のつり革に何とコロッケが。
正確にはプラスチック製の食品サンプルで、つり革のベルト部分に黄金色のコロッケがズラリ。よく見ると、小判形だけでなく、クリームコロッケを模した俵形もある。
たかがコロッケ、されどコロッケ。大正時代から続くとも言われる庶民の味、コロッケによる「まちおこし」に取り組む地域は数多いが、「龍ケ崎コロッケ」の洗礼は強烈だった。
龍ケ崎市は2009年に同じくコロッケで有名な富山県高岡市、静岡県三島市と「3コロ会」を結成。3コロ会を軸に各地の自治体に呼びかけ2013年から「全国コロッケフェスティバル」を3市持ち回りで開いている。冒頭の「コロッケトレイン」は第4回大会(16年秋開催)に合わせて運行を始めた。
特許庁の「地域団体商標」にも登録されている「龍ケ崎コロッケ」は、今や市の顔と呼ぶべき存在だ。2020年秋にJR東日本水戸支社がSNSで実施した「駅長対抗! いばらきの魅力総選挙」では、龍ケ崎市駅長が推す「龍ケ崎コロッケ」が総合グランプリに輝いた。
「龍ケ崎コロッケ」とは果たしてどんなものなのかーー。

龍ケ崎市商工会を訪れ、事務局長の大竹昇さんにレクチャーしてもらった。「2000年6月、移転した銀行跡地に、全国でも珍しい公立の漫画図書館『市街地活力センターまいん』が誕生しました。約3万冊の漫画とパソコンが並び、漫画とインターネット体験ができる市民の交流拠点施設です。来館する大勢の子どもたちに将来、思い出に残るようなものを食べてもらおうと、商工会女性部のメンバーが裏手の駐車場で地元の特産物で作り、販売したのが『龍ケ崎まいんコロッケ』の始まりです」
なるほど。まずは現場を歩いて見ないと始まらない。建物内部をのぞくと、数人の高齢者がインストラクターの指導を受けつつ、楽しそうに屈伸・柔軟運動をやっている。
「子どもの数がめっきり減り、インターネットも当たり前になったので、2020年に『まいん健幸サポートセンター』としてリニューアルオープンしました」と館長の大野雅之さんが教えてくれた。
同センターのチラシには「介護予防」「認知症対策」「体力維持」の字が躍る。20年の歳月は、どうやら環境を一変させたようだ。
やや肩透かしを食らった気分だが、女性部のメンバーらは今も変わらず頑張っている。まいんを後に、少し先の「龍ケ崎コロッケ会館」の字が見える「チャレンジ工房どらすて」(龍ケ崎のドラゴンとステーションの略)へ向かうと、龍ケ崎まいんコロッケ代表の吉田京子さんがマスク越しのニコニコ笑顔で迎えてくれた。