日経ナショナル ジオグラフィック社

ラ・アルモロヤの宮殿には大きな部屋があり、いくつかの長椅子に最大50人ほどが座れるようになっていた。男性と女性が埋葬されていたのはその部屋の下だ(PHOTOGRAPH VIA ARQUEOECOLOGIA SOCIAL MEDITERRANIA RESEARCH GROUP, UNIVERSITAT AUTONOMA DE BARCELONA)

「議会」の下の豪華な埋葬

「ラ・アルモロヤのプリンセス」と呼ばれるこの女性が属したアルガル文化は紀元前2200年から1500年にかけてイベリア半島南東部で繁栄し、まわりの部族よりもかなり早い時期から青銅器を使い、多くの人は孤立した小さな農地周りではなく、丘の上の大きな集落で暮らしていた。また、墓から出土した道具から、富や社会的地位が階層的になっていたらしいこともわかっている。つまり、支配者階級が存在した可能性がある。

リッシュ氏は、埋葬されていた男性はおそらく戦士ではないかと述べている。骨のすり減り方から馬上で多くの時間を過ごしていたことがわかり、また頭蓋骨には、おそらく戦闘中につけられた深い傷が残されていた。さらに、長い髪を銀色のひもで束ねており、金の耳飾りをつけていたことから、この男性も重要な人物であることがわかる。

女性が同じ墓に埋葬されたのは、その少し後だったようだ。ブレスレットや耳飾り、指輪、銀の装身具、銀の冠など、さらに豪華な副葬品とともに埋葬されていた。銀の冠は、発掘されたときもまだ女性の頭を飾っていた。アルガル文化では、ほかにも裕福な女性の墓から6つの冠が見つかっているが、その形状とも一致する。下向きに円盤状の装飾が施され、眉や鼻を隠すようになっている独特な形状だ。

当時のメソポタミア文明の記録に残されていた銀の価格を参考に、考古学者が見積もったところ、ラ・アルモロヤの女性の副葬品の価値は、現在に換算すれば数百万円ほどになるという。エル・アルガルでは、ほかの高貴な女性にも同じような豪華な埋葬が行われていたが、男性の墓からはここまで豊かな副葬品は見つかっていない。「こういった女性たちは生きていたとき、政治的にとても重要な役割を担っていたのかもしれません」とリッシュ氏は言う。

この女性が政治的な役割を担っていた可能性があることは、埋葬場所からもわかる。エル・アルガルでは、死者の多くが建物の下に埋葬された。そして、この女性の墓は、いくつかの長椅子があり、最大50人ほどが座れるようになっていた部屋の下にあった。研究者たちが「議会」と呼ぶ場所だ。リッシュ氏によると、この部屋がある建物はヨーロッパ大陸西部の最初期の宮殿で、すなわち為政者の住居兼執務場所であった可能性があるという。

積極的に経済活動を行っていた女性たち

スペインのタラゴナにあるロビナ・イ・ビルギリ大学の教授、およびカタルーニャ人類古生態学社会進化研究所(IPHES)の研究員で、考古学者兼歴史学者であるマリナ・ロサノ氏によると、アルガル文化のコミュニティは女性が支配していた可能性があると考えるのは妥当だという。なお、ロサノ氏は本研究には参加していない。

ラ・アルモロヤの遺跡には、青銅器時代の大きな建物がある。政治的、経済的な権力が集まる場所だったと考えられている(PHOTOGRAPH COURTESY OF THE ARQUEOECOLOGIA SOCIAL MEDITERRANIA RESEARCH GROUP, UNIVERSITAT AUTONOMA DE BARCELONA)

ロサノ氏は2020年の論文で、アルガル文化の女性の多くが、亜麻や羊毛の織物の生産に携わっていたとしている。今回の研究はその内容とも一致する。こういった織物は、冶金と合わせて経済活動の双璧を成していた。そのため、女性が為政者になることも十分考えられるという。「エル・アルガルの女性は積極的に経済活動を行っていました。為政者という役割も、この社会で重要な役割を果たした女性としての一例でしかありません」

対して、アルガル文化の専門家の中には、新しい解釈に慎重な姿勢を見せる人もいる。米カリフォルニア州立大学ノースリッジ校の名誉教授で、人類学者のアントニオ・ギルマン氏は、「すばらしい発見です。第一級の考古学的発見でしょう」と述べつつも、豪華な副葬品は豊かな為政者のものと考えるべきかどうかに疑問を投げかけている。

また、ラ・アルモロヤの建物を宮殿と考えることにも懐疑的だ。クレタ島にあるミノア文明のクノッソス宮殿など、青銅器時代初期のヨーロッパのさらに東にある建物に比べれば、はるかにみすぼらしいからだ。

ただし、ギルマン氏は、「これがとても重要な発見であるという事実に変わりはありません」とも付け加えている。

(文 TOM METCALFE、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年3月15日付]

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