起業から50年――。今や「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と呼ばれる時代を迎えた。かつての「ニューメディア」だった黒電話はケータイ、スマートフォンへとシフト。「ダイヤル」が何かを知らない世代も増えた。スマホは手にしていても、もっぱらメールだけで、電話はかけない人もいる。

新しいツールが新しい時代のニーズに応える

ダイヤル・サービスも時代の変化に即し、メールなど相談ツールを多様化させてはいるが、やはり電話ならではの良さがある、と今野さんはいう。「強い調子か、ポツリポツリか、声の調子からも相談者の心模様をうかがい知ることができるから」だ。

悩んでいる人たちの声をAI(人工知能)で分析し、相談電話をかけてきた直後と終了時の安心感や満足度などを把握し、精度と満足度の高い相談サービスにつなげる試みにも今、取り組む。電話がそうであったように、「新しいツールが新しい時代のニーズに応えるものだから」と思うからである。

「自分が納得し、社会からほめてもらえる。そんな仕事ができるのが社長の醍醐味」と語る

周囲の男性経営者らから「経営者ならもっと働いてもうけろ、もっと自社ファーストであれ、などとよく言われてきた」と明かす。だが、今野さんは金と名誉を追い求める生き方とは常に一線を画してきた。時代は変わったが、自ら挑むべき課題は山ほどあるという。だから「世の中で今、最もお金を必要としているのは私」と笑うが、「自らお金持ちになりたいと思ったことは一度もない」と断言する。

ラジオなどに出演し、これまでの取り組みなどについて話をすると、見ず知らずの視聴者から「あのころ、もし子ども110番がなかったら、今の自分はいなかった」と感謝の言葉が寄せられたり、地元の特産品が送られてきたりした。

お金では買えない財産を増やす

「自分が納得し、満足し、それが社員や社会から喜んでもらえる。そんな仕事ができるのが、社長の醍醐味だと思う。お金をもうけることだけ考えていては、良好な関係は築けない。グローバルでのお母さんと息子みたいな関係をどんどん築いていくことで、お金なんかでは買えない財産を増やしていきたい」と今野さん。

自ら起業した体験で培ったものを伝え、さらに支援の手を差し伸べることも惜しまない。

「何度、今野社長の言葉に助けられたか」と懐かしむソフトバンクグループの孫正義会長兼社長や南場智子ディー・エヌ・エー会長らもその一人である。

会社経営の他にも人々の健康づくりや信頼される日本の医療制度の確立、次世代を担う人材の教育、世界の平和……。「取り組むべき課題がこの年になって見えてきた」と口元を引き締める。85歳でなお意気軒高だ。

(堀威彦)

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