REITに不動産投資の妙味 マンション経営より低リスク
榊淳司 後悔しない住まい選び(最終回)
「不動産投資」というと、ちょっと危なっかしい世界をイメージする人も多いと思います。普通のビジネスパーソンに最も声がかかりやすい不動産投資は、ワンルームマンションの購入でしょう。「あなたも大家さんになれる」といった広告表現をよく見かけます。
「大家さん」といっても形だけ
確かに大家さんにはなれるのですが、所有するワンルームマンションの住戸には金融機関の抵当権がしっかり設定されてしまいます。ローンを返し切らないと抵当権は外れません。「大家さんといっても形だけ」というのが新築ワンルームマンションへの投資です。
月々のローンの返済は、入ってくる家賃で賄うというのが基本ですが、最近では購入時点から持ち出しの構造になっているケースも見られます。つまり、家賃収入よりもローンの返済や管理費、固定資産税などの支払額が上回っている状態です。
25年から30年にもわたるローンの返済期間が終わらないと、収支がプラスにならないのです。投資としてはあり得ないくらい劣悪な内容です。
REITは投資信託の一種
ただ、不動産投資がすべて危険かというと、そうでもありません。上手に不動産投資をした人が10年ほどで実質価値が億を超える資産を築いている例は少なくありません。しかし、それにはたゆまぬ努力と多少の幸運が必要で、誰もが上手にできるとは限りません。
ここでは、誰でもローリスクで不動産投資の妙味が味わえる入門編の手法を紹介しましょう。それはJ-REIT(Jリート)への投資です。Jリートとは日本の不動産投資信託(REIT)のことです。多くの投資家から集めた資金でオフィスビルや商業施設、ホテルやマンション、ロジスティック施設など複数の不動産などを購入し、その賃貸収入や売買益を投資家に分配するのがJリートです。投資対象は不動産ですが、分類上は投信の一種です。
即日の売却もできる
Jリートの銘柄は60ほどありますが、すべてに証券コードが振られています。つまり株式の銘柄と同じように売買ができるのです。
マンションやアパートといった不動産の現物に投資すると、「売りたい」と考えて市場に出しても、場合によっては換金までに何カ月もかかります。しかし、証券会社を通して株のように売買できるJリートの銘柄は、その日の相場でなら即日の売却も可能です。
ただ、基本は株式の売買と同じで銘柄の価格は変動します。購入時よりも値上がりしている場合もあれば、その逆もあり得ます。
運用している物件を実地に確認できる
種類も様々です。オフィスビルを運用している銘柄が主流ですが、マンションなどの住居系や、ホテルやロジスティック施設に特化したものもあります。それらをバランスよく合わせた総合型の銘柄もあります。
1口の金額も1万円台から七十数万円のものまで様々です。利回りは3%から4%台が多いのですが、中には5%を超える銘柄もあります。ただし、あくまでも想定利回りであり、決算期には変動している場合があります。
各銘柄ともに、運用している物件名が公表されています。投資をする前に、運用している物件を実地に確認することもできます。
実地に運用物件を見て「このビルに投資するのだ」と考えれば、数万円でも不動産投資の醍醐味が味わえるかもしれません。
ロジスティック施設へ需要、高まる可能性
例えば、コロナ禍は日本のビジネスシーンにテレワークを定着させています。この動きはオフィス需要の減退をもたらしました。
オフィスビル仲介大手の三鬼商事(東京・中央)が公表した2021年2月における都心5区の空室率は、とうとう5%を超えてしまいました。この流れが続けば、オフィス主体のJリート銘柄は今後値下がりする可能性が考えられます。
一方、Amazon(アマゾン)などの電子商取引(EC)がさらに伸長すると考えればロジスティック施設への需要が高まるので、関連銘柄の値上がりにつながる可能性もあります。
ホテル関連の銘柄は現在のところ利回りが超低調ですが、コロナのワクチンの普及でインバウンドの回復が見込めれば、今後は高利回りに展開する場面があるかもしれません。
不動産市場を見る目が変わってくる
ただ、Jリートの銘柄を購入するだけでなく、投資先の物件に関連する経済の動きを日々観察することで、投資家としての眼を養うことにもつながるのです。「社会人になったら何か株を買ってみろ」と先輩などから言われたことがある人は多いと思います。これは一獲千金を狙えという意味ではありません。
株式に投資すると、自然に自分の投資した会社を巡る経済の動きが気になります。そこから徐々に経済全体に対する観察眼が養われていくのです。やがては日本経済だけでなく世界の政治や金融の動きにまで目を向けることになり、社会人としての教養が培われるのです。
同様にJリートの購入は、この国の不動産市場を理解するための第一歩です。数万円の投資であっても、それを持つことによって不動産を見る目が変わるはずです。しかも、利回りというおまけも付いてきます。もちろん、購入した銘柄が値下がりして損失を被る可能性もあります。そこはあくまでも自己責任で行う投資です。
住宅・不動産ジャーナリスト。榊マンション市場研究所を主宰。新築マンションの広告を企画・制作する会社を創業・経営した後、2009年から住宅関係のジャーナリズム活動を開始。最新の著書は「限界のタワーマンション」(集英社新書)。新聞・雑誌、ネットメディアへ執筆する傍らテレビ・ラジオへの出演も多数。
(おわり)
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