――アパレルの閉店が続き、ファッションは売り先が細る一方です。対照的にコンビニは衣類の販売店としてまだ開拓の余地があるかもしれません。
「コンビニはその数だけ見ても、メディアそのもので、SNSなんて要らないなと思います。ご飯も飲料もあればネットフリックスやアップルのカードも売っていて、点と点を結んで様々なことを活性化できます。下着はいつもあのブランドで買う、と決めていた人たちの意識をファミリーマートに向けさせる力を秘めています。コンビニでインナーを買うことが当たり前になる世界を作っていく、というビジョンには心から賛同しますし、コンビニだからこそできる、大きなムーブメントに育てていきたいです」

「青と緑のラインソックスやトランクスのように、欧米でもファミリーマートやセブンイレブンカラーのスニーカーはクールだと受け止められ、とても人気があります。日本のコンビニは外国人も大好きですから、お土産にもなるでしょう。僕らクリエーターから見てコンビニはすごく面白い場所です」
ファッションデザイナーに新しい道示す
――開発の着手はコロナ前、発売はコロナ後です。その間に買い物は身近なところで済ませるという傾向が強まりました。
「生活を豊かにするという思いで作ったコンビニエンス ウェアが、このタイミングで世の中に出ることはプラスだと思っています。一方のファセッタズムは、コロナの影響でインバウンドがなくなり、パリコレもデジタル配信となりました。こんな逆境下にあっても、デザイナーたちの間では、ファッションムービーの制作のような、新しいクリエーティブや表現方法が生まれている。作る服の量がどんどん減っていく時代だからこそ、ファッションは衰退しないんだ、という証拠を見せていかなきゃいけない。僕の場合は、この間に、コンビニでの挑戦と新しい表現方法の両方に関わって、超楽しかったです」

――関西でスタートした当初、各店を回ってオーナーや店長と話をしたと聞きました。
「プロジェクトを担当しているファミリーマートの吉村直途さんと1週間かけて地方の50~60店を回り、座談会などで僕らの思いを伝え、信頼してもらうことに力を注ぎました。すると次第に関西圏でいい売り上げになっていきました。1年に1000も2000もプロジェクトがあるコンビニで、全国展開までたどり着けたのは、吉村さんらの熱意のおかげだと実感します」
「商品には僕の名前を出していません。僕のことなど知らなくていいんです。東京でファセッタズムというのはほんとうにコアな人たちしか知らないブランドです。僕自身はこのプロジェクトを通じて、ファッションデザイナーという職種には、もっといろんな可能性がある、ということを世の中に見せたい。1万6000店もの規模で衣料品ブランドをやれるという画期的な機会をいただけたのですから。ファッション界はコロナで苦境に陥っていますが、下の世代のデザイナーには、企業とコラボしてこんな仕事もできるんだ、ということを示したいし、新しい美意識も創造していきたい。その責任が自分にはあると痛感しています」
(聞き手はMen's Fashion編集長 松本和佳)

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