間島和奏と考えた コロナに負けないエンタメビジネス
Voicy「ながら日経」「ヤング日経」は3月2日、「アイドルと学ぶ日本経済」シリーズの1回目となるオンライン配信イベント「コロナ下のエンタメビジネス」を開きました。「密」を避ける新型コロナウイルス対策の中で、エンターテインメントでもオンラインイベントが模索されるようになりましたが、ファンの熱量の維持や収益化が課題となっています。コロナでエンタメビジネスはどう変わるのか。数多くのオンラインライブを手掛けているスピーディ(東京・港)の福田淳社長とアイドルグループ「ラストアイドル」の間島和奏さんが議論しました。モデレーターは日本経済新聞社の鈴木亮編集委員。
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ライブエンタメはほぼ全滅
鈴木「コロナでとにかくいろんなビジネスが痛めつけられました。流通系、外食系、レジャー系……。このイベントビジネスの世界もぴあ総研の試算によりますと、今年1月までで約7000億円の損失と言います。市場規模の8割に相当するくらいの損失ですね。福田さんは現状をどう見ていますか」
福田「音楽ライブだけじゃなくて、お芝居だとかファッションショーだとかライブエンターテイメントがほぼまあ全滅してしまいました。ライブハウスもそうです。だからもう大変な経済的な痛手は日本だけじゃなくて世界中であると思います。一方で未来を見れば元々デジタル化が遅れていた日本がDX(デジタル・トランスフォーメーション)を進めるいいチャンスにするしかない」
「音楽マーケットで言えば日本はまだまだCDが売れる余地があるんです。米国では3年前に完全にオンラインの方が(CDなどの)パッケージを超えています。パッケージはプレミアム商品以外ないような実情でしたから。日本はその流れについては遅れましたので、これを機会にオンラインのキャッチアップして行くと言う風に前向きにみたらどうかなというふうに思っています」
鈴木「ピンチをチャンスに変える局面ということですね。間島さん、アイドルも2020年は本当大変だったと思います。この1年を振り返っていただくと、その前の2年間に比べると様変わりって感じでしたね」
間島「ファンの顔を直接見る機会も減りました。やっぱり私たちも寂しかったですし、きっとファンの皆さんも同じだと思います。私たちは『会いに行けるアイドル』というのがベースにあります。握手会とかで普段みなさんに応援していただいた恩返しを分かりやすい形でできなかったので、すごく不安でもありましたね」
鈴木「そんな中で『愛を知る』と『何人も』と2曲リリースしました。でもオンラインだとやっぱりファンに思いが届かなかった部分もあったんですか」
間島「そうですね。オンラインライブが多かったので、ファンの反応が見えないじゃないですか。不安が大きいというか、ちゃんと届いているのかなという気持ちはやっぱりどこかにありました」
オンラインライブの可能性
鈴木「今、間島さんからもお話がありましたけど、音楽業界、イベント業界で全く新しい動きとしてオンラインライブが始まりましたよね。実は福田さんがオンラインライブを始めたのは昨年の4月です。まだ本当にコロナになって間もないころですね。既に60件以上ライブをしているということですが、実際やってみていかがですか」
福田「東京が緊急事態宣言になって、うちの(所属歌手の)レイヤマダのオンラインライブをまず無料で沖縄からやってもらいました。その後笑点のメンバーの落語や夏に(女優の)渡辺えりさんのお芝居を3本配信しました」
「始めたときは『みんなが大変な時に有料のオンラインライブとは何事か』という批判もありました。そういう声も出るだろうなと思っていましたが、僕にははっきりした理屈がありました。熊本の震災だとか東日本大震災みたいに一部の地域だけがダメになって、ほかの日本全国が普通の経済状況であればボランティアで、無料でエンターテイメントを提供するべきです。実際そういうふうにしてきたんです。でも今回の場合は世界が全部止まった。これは新しい生きる道を示さなきゃいけないと思いました。有料でやってスタッフにもお金を払います」
「実際、最初は赤字でしたけれども、やるうちに固定ファンがついてきました。渡辺えりさんのお芝居はお客様の年齢層が高かったので、どうやっていいかわからないという声に対応してオンラインのやり方もきっちり説明するビデオを作りました。生で観ると5000円ですが、オンラインは3500円にしました。フタを開けてみたらオンラインで買った方の平均が5000円でした。寄付できる仕組みを作ったんですね。すごい年配の方も勉強して、どうせだから応援したいということで払ってくださる方が多くてそういう結果になったんです。もう昨年の夏頃にオンラインが一つのマーケットになるだろうなという確信を持っていました」
オンラインでトータルの観客数増える
鈴木「間島さん、昨年12月末の3周年ライブはやっぱりオンラインになっちゃいましたよね。オンラインライブをやってどんな事を考えていましたか」
間島「そうですね。アイドルのライブって光るサイリウムという応援グッズを持ってくださったり、曲中にコールっていう掛け声をやっていただいたりするので、オンラインだと見える景色が全然変わってくるんです。やっぱり達成感といいますか、やりきった感じはどうしても減ってしまいます。でもその分オンラインだからこそ、普段はちっちゃいお子さんがいてライブになかなか来れない方とか、学生さんでオンラインだと払えるけど実際のチケットは高いと思っている人とかも観てくださる機会が増えました。その点はすごく良かったなと思っています」
鈴木「トータルでラスアイのライブを見た人の数はやっぱりオンラインが多かったんですか」
間島「そうですね。やっぱりオンラインライブもそうですし、握手会の代わりにお話会というテレビ電話みたいなものをやっています。『今度初めてライブ観に行きます』って方とか、『普段は行けないけど今は行けるから観られる、お家で観られるから』って言ってくださる方は多いですね」
サザンが拓いた道
鈴木「オンラインライブに向いてるアーチストとか、オンラインにすると魅力が増すアーティストってどんなタイプのアーティストなんでしょうか」
福田「アーティストに限らずビジネスマンもそうなんですけどもDX化に遅れた人はちょっと厳しいですね。ミュージシャンで言いますと昨年夏にサザンオールスターズが横浜アリーナで(オンラインライブを)やりました。横浜アリーナって1万2000人入ります。サザンは満杯で毎年やっていたわけですよ。ところが今回、オンラインで18万人の人が観たわけです。オンラインの可能性の方がビジネス的に成り立つじゃないかということを最初に証明したのが、サザン。その後、矢沢永吉さんとか皆さんいろいろ続いたわけですよ。球場を埋めるくらいのことができる人たちはオンラインでも間近にライブで観られるという新しいマーケット作った」
「間島さんみたいなアイドルや普段からお客様の顔を見て接して、いろんなアイデアでそのお客さんとコミュニケーション取ってる方も多分このDX時代になるとすごく強いと思うんですよ。1番頑張んなきゃいけないのが『音楽はライブじゃなきゃだめだよ』とか、もう年齢に関係なくデジタルを最初から否定する方はこれから大変になってくると思います。今からでもデジタルを学んでマーケットを築くと、ワクチンが普及して集団免疫ができた後に今までの通常のライブとオンラインと両方のレベニューリソース(利益源)ができるんで、これはもうチャンスと考えてもらいたいなと思います」
鈴木「アイドルはDX化が進んでいるそうです。そのあたりどういう風になっていますか」
間島「確かに言われてみたらやっぱりアイドルってなんだろう、ただ歌うだけとか踊るだけじゃなくて、例えばお芝居やいろんな事をやってもいい職業だと思うので、見せ方は考えられるなと思います。オンラインだからこそ、いろんな方向性で攻められるんじゃないかな」
アイドルが持つDXに強い体質
鈴木「アイドルの強みって固定客っていうかですね、しっかりとしたファンを必ず抱えているというのは今回強めになった部分もありますか」
福田「今のエンターテイメントが360度契約っていうのを15年ぐらい前に(米歌手の)マドンナがやったんですね それまでマドンナは自分の音楽配信にワーナーミュージックと契約していたんですよ。ところが360度契約といって興行会社と契約したんです。マドンナの読みが当たり、CDがおまけでライブエンターテイメントが主な収入になりました。CDがダメになっても音楽配信がそんなに伸びなくても、音楽業界というのは1998年のCD売上のピークより上回っていたのがこの3年ぐらい前の状況だったんですね」
「360度契約契約って、なにかというと音楽を中心にしたライブ、パッケージ、マーチャンダイジングなんですよ。アイドルの方は昔からブロマイドとか、握手会だとかグッズ売ったらこういう特典がありますってクラウドファンディングみたいに直感的にそういうことを全部おやりになったわけですよね。だからやっぱりお客さんの顔が見えないという不便は今あるんですけども、もともとやっぱりD Xに強い体質を持っているんだと思います」
間島「なるほど嬉しいですね。なんかこれからも確かに。でもやっぱり何だろうアイドルのファンの皆さんってそのライブの一体感というか一緒にコールしたりするのも楽しみにしてくださっている方が多いと思うので、そういうところなんか代わりになる案とかもっと考えていきたいなとは思いますね」
リモートでのブランディング
福田「スポーツエンターテイメントで面白い例があります。ドイツのサッカーリーグは収入の90%がテレビの放映権なんですよ。それで無観客で始めたんですね。そうするとお父さん、おじいちゃんの代からファンだったという人たちがほとんど離れていっちゃいました。『テレビの放映のために観客無しでもやるのか』と。だけどやっぱり放映権料の方が大きいからお客さんを軽視しちゃったんです。ドイツのサッカー業界はコロナ明けにお客さんが戻ってこないって今心配しているんですよ。ところが日本のプロ野球は放映権料が逆に1割しかないんですよ。だからコロナになったら売り上げが下がっちゃった。その間にファンに応援してもらうために選手が出てきて小学生とオンラインで交流するなど、あらゆるデジタルを使っています。僕はリモートトラスト力ってビジネス 1回で言いますけどまあリモートでお客さんに愛してもらうようなブランディング尺を取っていたからおそらくコロナが明けてもDeNAみたいなところはすぐお客さんがまた元に戻ると思いますね」
鈴木「例えばアスリートの方とかアイドルとか含めたアーティストの方々ですね私たちは不要不急な存在なのか。コロナの時に活動するのが後ろめたいようなそういうことが発言されている方も結構おられたんですね。その文化としての例えば音楽とかスポーツっていうのビジネスとしての音楽やスポーツここのこう協会がずいぶんを入り乱れちゃったのは2020年だったかなという気がするんですけどそのあたりはどんな風に分析されますか」
福田「僕は30年以上エンタメやってきているんで、エンターテイメントがないと生きていけないっていう人生を過ごしてましたから、それなしに暮らしていけるなんて人は逆に凄いなと思うんです。例えばタイミングの問題があって東日本大震災が起きた時にその友達や親族が行方不明なんてわからないっていうところにギター1本持って行って癒しだって言ってもそれは嫌われるわけですよね。だけどもあるやっぱり時間が経った後にみんな精神的に病んじゃうわけですよ。そういう時にエンターテイメントがどれだけ生きる糧になるのかっていう事例はたくさんありました」
「コロナの議論の中で経済が回らない人の自殺が多いという話がでています。実際に起きたウイルスによる影響よりも、エンターテイメントがないことによる喜び楽しみがないことによる喪失感の方が実際の悪影響が出ていると思うんです。やっぱり今だからこそあらゆるエンターテイメントをちゃんとやるべきだと思いますね」
鈴木「コロナ下で家にいなさいと言われて外にも出られないという人にとってアイドルが心の支えだったという声も結構聞いたんですよ。その辺りはどうですか」
間島「そうですね。やっぱり自分もそうですし皆さんもなかなか外にご飯に食べにいくのも難しかったり、友達と会うのも難しかったり。娯楽がほとんど制限されてしまっている時代だからこそ、これまでと変わらずテレビやオンラインのライブで、私たちが歌って踊ることで何か楽しさを感じてもらえたら嬉しいなと思います」
オンラインだからこそ拾えるお客さんの声
鈴木「『愛を知る』や『何人も』を聞いて元気になった人もいたと思いますね。そういう思いは受け止めていたなあ、という感じはありますか」
間島「そうですね。そういう声はすごく聞いていて特に『愛を知る』の時はそれこそコロナになってすぐの時にリリースさせていただきました。歌詞的にも、前を向こうという明るい楽曲だったので、『毎日、聞いて通勤してます』と医療関係者のファンの方からそういう声をいただきました。すごく嬉しかったですね」
鈴木「福田さんの方にはそういうファンの声、お礼の声は結構届いていいますか」
福田「毎日ものすごく来ています。うちの会社は月に2本くらいオンラインライブやっています。今までステージでやっていて、皆さん感激したって言ってもショーが終わった後の話です。ライブの状態でお客さんの声っていうのは拾えなかったんですよ。でもオンラインだからこそ、お客さんが今思ったことを登壇者がなんか答えられる可能性があります。今までなかったお客さんと出演者の対話や新しいコミュニケーションができる可能性をデジタルが広げてくれたと思います」
(構成は村野 孝直)
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