社内スクールが技術の「エンジン」

社内スクールの「ロジスカット」では給与をもらいながら「仕事」として学ぶ

技術力を支えているのは、社内スクールの「ロジスカット」。技術をゼロから指導し、6カ月間で一人前に育て上げる。仙台、東京、名古屋、大阪、福岡の5校がある。かつての理美容業界では「技術は見て盗め」という慣習があったが、同スクールでは同社の持つノウハウを惜しげもなく伝授している。しかも有給だ。「いったん仕事を離れてブランクがある人や、見習い段階であきらめてしまった人を迎え入れて、現場に送り出している。すべて有給の仕事として学んでもらう」(入山氏)。同社の人材面でのエンジンと呼べる存在だ。

実は過去には人材の確保と定着に苦労した経験を持つ。10年代の初めには離職率が50%に達したこともあった。高いスキルを持つ技術者を安定的に配置しきれず、労働量の濃淡が出て、離職につながった。しかし、今では6%台にまで下がっている。「ロジスカットを通じた、継続的な人材育成と、経験者を現場に呼び戻す取り組みの効果が大きい」と、入山氏はみる。19年に実施した1200円(税込み)への値上げも働き手の待遇改善につながった。

QBハウスでヘアカットを担当する技術者は「スタイリスト」と呼ばれる。定年はない。実際、シニア層のスタイリストは珍しくない。ほかの理美容店で働いてきた人も多く、「様々な経験を生かしてもらえる職場になってきた」(入山氏)。曜日や時間帯を選んだ働き方を希望できるので、育児中のスタイリストも働きやすい。「薬剤を使わないから、手荒れの心配がなく、カットに専念する形で安全に働いてもらえる」という点も働き手に選ばれる理由のようだ。

毛くずを吸い取る「エアウォッシャー」や、支払いに使う発券機など、設備面での特徴になっている機器は、類似業態の店舗にもみられる。「見た目では区別がつきにくいような他社店舗もある」(入山氏)というが、技術レベルの高さがQBハウスにリピート客を引き寄せている。全国のスタイリストが参加する技術コンテストはスポーツイベントのような熱気を帯びる。店長クラスがノウハウを持ち寄るミーティングも定期的に開かれていて、技能にとどまらず、接客面でのスキルも磨かれている。こうした知見はロジスカットに集められ、全社で共有される仕組みだ。

日本でヘアカット店を開くには、国家資格を持っている必要がある。QBハウスでは当然、全員が有資格者だ。しかし、海外ではむしろそうした公的な資格は珍しく、技能に乏しい人がヘアカット店を営んでいるケースもある。同社は既に米国やアジアで130店以上を展開している。国家資格のない地域では、スキルの位置づけや教育の制度もゼロから設計する必要に迫られたが、「社内のノウハウ蓄積が現地でも役に立った」(入山氏)という。

海外では日本流の清潔感やキビキビした仕事ぶりは「現地の理美容店に比べて、新鮮に映ったようだ」(入山氏)。新型コロナウイルス禍のあおりで、長時間のサービスを敬遠する意識が強まっているのも、10分ヘアカットが支持される背景になっているという。日本に比べて、法律や業界ルールのハードルが高くないという現地事情は、新業態を持ち込みやすい下地になった。「髪が伸びるという生理現象は万国共通。はさみは国境を越える」と、入山氏は海外にまだ十分に成長の伸びしろがあるとみる。

創業者の不満から立ち上がった新業態は四半世紀をかけて練り上げられ、「世界商品」に育った。ビジネスパーソンから始まって、女性、子供、高齢者にも支持を広げてきた「10分ヘアカット」。出現した当時はいわゆる「価格破壊」の新手ともみられたが、今ではサービス内容や価格帯などの面で自らの枠を超えるような、新たな挑戦も始まっている。

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