好立地への出店で利用シーン多様に

キュービーネットホールディングスの入山裕左専務は自社を「時間創出企業」と位置づける

10分ヘアカットが支持される理由は、時間を節約してもらえるからだけではない。納得感の高さも、リピート利用者が多い理由だ。QBハウスでは客を席に座らせてからは、担当者は無駄な動きをほとんど見せない。従来型の理美容店では洗髪や支払いなどのたびに店内を移動し、はさみから手が離れる。しかし、QBハウスでは毛くずを吸い取ったり手鏡でチェックを求めたりするときを除けば、ずっとはさみやバリカンが動いていて、客が無駄に待たされることがない。「自分の時間を無駄なく扱ってくれているという満足感を得てもらいやすい」(入山氏)。生産性の高い動作が顧客満足度を支える仕組みだ。

顧客の時間を無駄にしないという思想は店舗の随所に生かされている。店頭の入り口に設けた混雑告知灯もその一例だ。上から赤、黄、緑のシグナルが点灯。混雑状況を知らせる。わざわざ店内をガラス越しにのぞき込まなくても、ずっと手前の位置から混み加減を把握できるから、入店するかしないかを早い段階で決められる。「来店してもらう以前の時点から、お客様の時間を大事にしたい」(入山氏)という思いが込められた設備だ。今では混雑状況をチェックできる専用アプリも用意されている。

QBハウスの使い勝手のよさは、立地との関係が深い。主な出店先は駅近くやショッピングセンター内。近ごろは空港や病院、大学、サービスエリアなどにも出店している。通りがかりにフラッと立ち寄りやすい場所ばかりだ。立地が新たな利用シーンを生み出してもいる。たとえば、子育て中の母親はヘアカットの時間だけ子供を預ける先を見付けにくいが、「QBハウスなら10分で済むので、買い物のついでに立ち寄れる」(入山氏)。前髪だけ、襟足だけといったポイントカットの利用も広がったという。

10分という短時間サービスは、利用者の年齢層を広げる効果も呼び込んだ。たとえば、子供の調髪がそうだ。「長い時間にわたって動かないでいるのが難しい子供でも、10分程度であれば、じっと我慢しやすい」(入山氏)。毛が短いからこそ、こまめにカットしたくなる坊主刈りの場合も、10分で済むなら、1週間に1度といったペースで足しげく通える。利用者の側が賢く使い道を見付ける格好で「需要の創造」が進んだ。

こうした使い方を可能にするのは、集客力の強い場所への出店だ。自らも宅地建物取引士の資格を持つ入山氏は「立地優位性は利便性に直結する」という。目に付きやすい場所は空き時間に立ち寄る需要も生み出す。同社は新たなスポットの開発をいろいろと試していて、横浜市役所内にも2020年6月に店舗を構えた。QBハウスは洗髪しないから水道・排水設備が不要で、出店場所の制約が少ない。サービスを省いたおかげで、出店先選びの自由度まで手に入れた格好だ。

独自の業態を開発した同社は、優れたイノベーションを表彰する「ポーター賞」を2017年度に受賞した。18年には日本サービス大賞のJETRO理事長賞も受けている。しかし、かつては業界の常識を打ち破る新業態だっただけに、「際物(きわもの)扱いを受けたこともある」(入山氏)という。

創業当初から長く1000円(税込み)の料金設定で知られ(19年に税込み1200円へ値上げ)、デフレ下では安さが関心を集めた。しかし、単なる低価格ではない、確かな技術に裏打ちされたサービスである点を提案し続けて、オンリーワンの評価を得た。

次のページ
社内スクールが技術の「エンジン」
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら