オンラインで住まい探し 臨場感アリ、交通費を節約
春は引っ越しの季節。新生活に向け、住まい探しが盛んになる。コロナ禍で外出しづらいなか、オンラインでも住まい探しができると聞いて、どんなものか試してみた。
リクルート住まいカンパニーSUUMO副編集長の笠松美香さんに聞いた。「スマホの普及で手軽に写真や動画を撮れるようになり、物件の情報が充実しました」。写真に加えて部屋全体を見回せるパノラマ画像や動画が情報サイトに掲載されている。
内見も不動産仲介業者が自宅にいる客に部屋を中継する形式が広がる。不動産情報サービス、LIFULL HOME,S(ライフルホームズ)事業本部の松田栄樹さんは「現地までの交通費など費用も節約でき、1日に内見できる件数も増えます」と話す。
一般的に仲介業者の店頭で契約する際、宅地建物取引士の資格を持つスタッフが注意事項を説明する必要がある。これも感染防止の観点からオンライン化が進む。ライフルホームズの内見可能物件数(21年2月時点)はこの1年弱で約4倍に増えた。
流れは対面と同じ。(1)物件探しと仲介業者への相談(2)内見(3)契約――の順に進む。
まずは物件探し。以前は地域内の仲介業者に限定して扱われる物件もあったが、「情報サイトの充実でネット検索と店頭で見られる物件数に差がなくなりました」(笠松さん)。
非公開の情報でも、教えてもらえるものがある。番地など詳細な住所がわかれば、グーグルマップのストリートビューを使い、駅までの道や環境などを確認できる。候補物件の絞り込みにつながる。
物件が見つかったら、オンラインで可能か聞いてみる。内見が可能な場合は、スケジュールを担当者と相談し、間取り図などをメールで取り寄せよう。事前に印刷して確認しておけば、内見中に得た情報などを書き込み、後から見返して吟味できる。
いざ、オンラインの内見に「出かけた」。案内役は不動産仲介、ミニミニ城北・川越店店長の山田貴文さん。内見の前に仲介業者指定のアプリをスマホにダウンロードする。今回はライフルホームズが提供するアプリを使ったが、オンライン会議ツールZoomを使う業者もある。
約束の時間にアプリを起動。事前にメールで聞いた暗証番号を入力すると現地にいる山田さんとつながった。
建物の前の通りから内見がスタート。山田さんはスタビライザーと呼ぶ手ぶれを防止する器具を使っているので、スマホのカメラでも映像酔いはない。階段の上り下りも追体験可能で、勾配や手すりの位置なども確認できた。
スマホには広角レンズをつけており、視野は実際に見るのとほぼ同じ。音声や映像も乱れがなく、臨場感は高い。事前に想定していた以上にその場にいる感覚があった。
もっとも、建物の雰囲気や周囲の環境など現地に出向いて感覚的に得られる情報はわからない。室内の温度、湿度やにおい、外からの音は、スタッフの意見から想像するしかなく、現実とギャップを感じる可能性がありそうだ。
見たい場所を指示したり、尋ねたりする手間がかかり、十分な情報量を得るまでに約50分かかった。以前にリアルで内見をしたとき、20分程度で済んだから長いと感じた。
今回の内見は午後2時。南向きで明るさは十分だが、時間帯により見え方が変わるかもしれない。3月など仲介業者の繁忙期は希望の時間帯に予約できない可能性もある。
リクルート住まいカンパニーの笠松さんは「契約前には一度、現地に出向き周囲の雰囲気をつかむのが望ましい」と指摘する。オンラインが「予選」なら、絞り込んで「決勝ステージ」に残った物件は見に行った方が無難だ。
リアルとオンラインの組み合わせで、費用と感染リスクをうまく抑える住まい探しがこれからの主流になると感じた。
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利便性高い郊外が人気
川崎市に暮らす女性会社員(24)は毎日、在宅勤務になったため東京都八王子市への引っ越しを決めた。通勤に便利な場所に暮らしていたが、コロナ禍以降、出社は2度だけ。「立地よりも住み心地」を重視。感染対策を目的に外出せずオンラインで新居を決めた。
ライフルホームズが2月に発表した「2021年首都圏版借りて住みたい街ランキング」によると、1位は神奈川県の本厚木(小田急線)。八王子は4位だった。乗り換えがなく、都心へ通いやすい郊外の人気が高まる。転勤以外にも住み替え需要はあるようだ。転居したいがむやみな外出は避けたい……そんな需要にもオンラインの住まい探しはマッチしそうだ。
(生活情報部 田中早紀)
[NIKKEIプラス1 2021年3月13日付]
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