日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/3/29

「ウィズダム」という名前の理由

ウィズダムは実際には70歳を超えている可能性が高い。彼女の年齢は1956年に、レイサンアホウドリが性的成熟に達する最も早い年齢である5歳、と控えめに推定された。

2002年、ミッドウェーを再訪したロビンス氏は、交換が必要なボロボロの足環を付けたアホウドリに気づいた。氏は間もなく2つのことを知るに至る。1つ目は、氏が自ら1956年にこの鳥に足環を付けていたこと。2つ目は、この鳥は推定51歳で、アホウドリの寿命の記録を更新するということだった。当時、生物学者はレイサンアホウドリの寿命をおよそ40年と考えていた。

アホウドリの命を脅かす津波やサメなどの危険に加え、気候変動による海の温暖化、プラスチック汚染、釣り糸など、人間がもたらす新たな脅威から長年逃れてきたことから、彼女は「ウィズダム(知恵)」と名付けられた。

それ以来、ウィズダムは国内外でインターネットの寵児となっている。ハワイ語では、レイサンアホウドリは「モーリー」と呼ばれる。先住民の文化では農耕と雨の神ロノの象徴と考えられており、重要な位置を占める存在だ。

彼女が有名になったことで、海鳥、特にレイサンアホウドリが直面している危険に注目が集まるようになったと、魚類野生生物局の野生生物学者でホノルル在住のベス・フリント氏は話す。

「彼女は人間に匹敵する寿命を持つ鳥です」とフリント氏は言う。「彼女の最大の貢献は、人々の興味を刺激していることだと思います。彼女はまた、より多くの人々を科学の世界に引き込んでいます」

40羽以上育てたベテランママ

毎年秋になると、何カ月もの間、海上にいたレイサンアホウドリたちは、ミッドウェーに戻って新しい繁殖期を迎える。それまで比較的空いていたターコイズブルーのラグーンの上空は、細長い翼を広げて飛ぶ鳥たちでいっぱいになる。

世界のレイサンアホウドリの個体数は約160万羽と推定されている。そのおよそ70%は、ミッドウェーの第2次世界大戦の軍事基地が国立野生生物保護区となった約5平方キロに営巣する。調査によれば、2020年には約49万2000個の巣があり、前年よりわずかに増えた。

レイサンアホウドリのつがいは、直径約90センチメートルの円の中に小枝、葉、砂をかき集めて、土の中に浅いお椀状の巣を形成する。メスが卵を1つ産んだ後、つがいは共同で子育てをする。交代で数日から数週間に及ぶ採餌に出かけ、魚やイカを吐き戻してひなに与える。

2月1日にふ化したばかりのウィズダムのひな。父親であり、ウィズダムの現在の伴侶である「アケアカマイ」と(PHOTOGRAPH BY JON BRACK / FRIENDS OF MIDWAY ATOLL NWR / USFWS)

真夏になるとひなは海に飛び立ち、3年から5年は陸地に戻らない。その後、さらに数年の間、海と陸地を行ったり来たりしながら、伴侶を求めて精巧な求愛の踊りを披露し、つがいが成立すれば長く絆を築いていく。

ウィズダムは何羽もの伴侶に先立たれてきた。プリスナー氏が言うには、40個もの卵を産んできたベテランママらしく、彼女の性格はかなり落ち着いたものだと言う。

「ウィズダムは多くの時間を巣で寝て過ごしています」と同氏は言う。「彼女のそばには目印を置かなければなりません。そうしないと溶け込んでしまって、全く目立たないんです」

アホウドリを脅かすもの

ミッドウェーのレイサンアホウドリを取り巻く最近の懸念は、卵を温めている成鳥を攻撃する外来種のネズミの存在だ。魚類野生生物局の生物学者は、かつて大型のラットを駆除したようにこのネズミも根絶したいと考えているが、そう簡単にはいかないようだ。

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アリューシャン列島より北でも
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