――ワーケーションは将来性が期待できる働き方のようですね。

「地方と企業と個人の三方一両得を実現できると私はみています。ただ現状はまだそこまで至ってません。ワーケーションに対する一般的な認識は自然豊かな場所でパソコンに向かって仕事をこなす程度。それでも心身のリフレッシュや、落ち込んだ観光需要の代替は期待できますが、そんなバケーション型ワーケーションだけでは波及効果が限られ、もったいない気がします。せっかく人が行き来するのですから、交流(コミュニケーション)、学び(エデュケーション)、貢献(コントリビューション)という『脱・バケーション型』を促す仕掛けが大切です」

「それは地方に限らず、働く個人にも有効です。例えば地域の特産物の販売プロモーションの立案です。日ごろ経験しない仕事に携わる貴重な機会となります。その経験が糧になり、能力開発ややる気向上につながります。ホテルやレンタルオフィスに閉じこもって日常業務をしているだけでは得られない成長が期待できます」

――足元でのワーケーションへの関心の高まりに懸念も抱いているそうですね。

「働き方改革で提唱されたプレミアムフライデーのように一過性のブームで終わらないかが心配です。自治体は熱心に誘致合戦を繰り広げていますが、働く人と社員を送り出す企業はさほどワーケーションに熱を上げていないのが実情ではないでしょうか。コロナ禍でテレワークが広がり、いつでもどこでも働ける環境が広がったとはいえ、就労管理に課題が残ります。『リゾート地で本当に仕事になるのか?』。企業の心配は相変わらずです。働く側も、同僚が都市のオフィスで働いているのに自分だけリゾート地で働くことに気兼ねがあります。日本ではバケーション型のワーケーションは今も高いハードルです」

「ここ数年、確かに関心は高まっていますが、実践者はフリーランスやベンチャー企業の勤務者など一部のスモールボリュームです。パイを広げる工夫もせずに、限られたワーケーション人口を自治体で奪い合うのは不毛です。重要なのは一般企業を中心としたマスボリュームの巻き込みです」

――定着への課題は何ですか。

「まずは官民が連携したプラットフォーム構築です。都市部の人材は、どこでどんなワーケーションができるのか、宿泊施設やサテライトオフィスのハード面に限らず、地域との交流事業などソフト面の情報が実はよく分からない。また地方は、都市部のどんな企業や人材が地方に関心を持っているか分からない。こうした都市と地方間の『情報の非対称性』を、このプラットフォームで解決します」

「そして企業を巻き込むために、ワーケーションの費用対効果も数字でしっかり示すこと。ストレス低下やモチベーションアップ、地方での発想を生かした新規事業開発、地方企業との連携などの実績を見える化することです。三菱総合研究所の調査では大企業の経営幹部の約7割がワーケーション(逆参勤交代)に関心を持っています。ただ課題として挙げられたのが『費用対効果』です。効果をデータで裏付けできれば一気に広がる可能性もあります」

「地域経済のためには、新型コロナ禍が収束したら、法人版『Go Toトラベル』事業も考えてはどうでしょうか。個人のGo Toは短期滞在なので、法人の長期滞在型のワーケーションを実施する企業に対して、交通費や宿泊費を支援するのです。当面インバウンド需要は見込めません。地方の観光施設、ホテルの稼働率が高まる一方で、ワーケーション効果を企業に実感してもらえれば普及の呼び水になるでしょう」

(編集委員 石塚由紀夫)

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