コカ・コーラ「やかんの麦茶」 シンプルな味で若者に
夏の商品という麦茶のイメージを覆し、通年で訴求する新しい麦茶ブランドが登場する。日本コカ・コーラは2021年4月26日から「やかんの麦茶from一(はじめ)」を全国で発売する。同社が麦茶ブランドに初めて本格的に取り組み、ターゲットは20~40代と、特に若者を狙う。圧倒的なシェアを持つ伊藤園の「健康ミネラル麦茶」の牙城を崩そうと、本気の一手を打つ。
日本コカは21年2月22日、新商品「やかんの麦茶from一(はじめ)」(以下、やかんの麦茶)を4月26日から全国で発売すると発表した。近年、容器入り麦茶の市場は拡大しているものの、実は麦茶だけの新ブランドは育っていなかった。圧倒的なシェアを持つ伊藤園「健康ミネラル麦茶」に対し、サントリー食品インターナショナルの「GREEN DA・KA・RA やさしい麦茶」が唯一目立っている程度。日本コカには1993年に発売した「茶流彩彩 麦茶」があるものの、存在感は薄い。そこで、やかんの麦茶ブランドに切り替えてシェアを高める狙いだ。
やかんでお湯を沸かし、じっくりと煮出して作る、昔ながらの香ばしい香りやすっきりとした後味がコンセプト。全国のスーパーマーケットやコンビニエンスストアを中心に、600ミリリットル(140円)、650ミリリットル(同)、950ミリリットル(156円)、2リットル(331円、いずれも税別)の4サイズで展開する。
空白市場があった! 新麦茶が取りにいくのはここ
大きな特徴は、「主に若者がターゲット」「シンプル茶」の2点だ。下の図は、売れ筋の麦茶について「ファミリー向け/若者向け」「ブレンド/シンプル」に分類し、全体像を表したものだ。見ての通り、若者向けで、シンプルな麦茶はない。ここを取りにいくという日本コカの狙いがある。
ブレンド茶は、やさしい麦茶やアサヒ飲料の「十六茶麦茶」のような既存ブランドの横展開が多い。シンプル茶はファミリー向けの健康ミネラル麦茶が筆頭だ。若者向けのシンプルな麦茶はなく、図の下段がぽっかりと空いている。ここを狙ったのが、やかんの麦茶だ。
日本コカのマーケティング本部ティーカテゴリー麦茶ブランド担当マネジャー・竹井仁美氏は、「大麦に麦芽や玄米、はと麦などをブレンドする商品が多いなか、麦茶にシンプルさを求める声が多く、大麦のみを使用した」と語る。脂肪を燃やすためといった機能成分や添加物も使わず、5大栄養素の1つであるミネラルに関しても大麦由来の成分以外は添加しない徹底ぶり。もちろんカフェインもゼロだ。
大人向けに振った「ファンタ プレミア」の成功に学ぶ
ターゲットを絞ることは、幅広い層に親しまれる麦茶にとってはマイナスに働くようにも思える。しかし、日本コカは近年、主力商品のターゲットを限定した新商品で成功を収めているのだ。20年3月に発売した「ファンタ プレミアグレープ」のターゲット層は30代以上。フルーツ味の炭酸飲料は若者向けという常識を覆し、発売から3カ月で1900万本を売り上げた。同月発売した「綾鷹 濃い緑茶」の狙いは50~60代。年配層と若年層で味の好みが二極化している傾向に目をつけ、弱かったシニア層にリーチする狙いがあった。
日本コカが無糖茶の飲用割合を調査すると、20~30代では麦茶が37%を占めたという。年配や子供が飲むイメージが強かった麦茶は、実は若者にも支持されていたのだ。パッケージは若者から支持が強かった暖簾(のれん)をイメージし、日本の伝統色である浅葱(あさぎ)色をイメージカラーに採用。懐かしさの中に新しさを感じさせるデザインを施した。
冬に飲む麦茶のニーズを捉え、通年販売することも特徴の1つ。かつて麦茶は夏の商品というイメージが強かったが、近年は秋冬での売り上げが伸びている。消費財の行動データを分析するTrue Data(東京・港)による、食品スーパーでのここ3年間の売れ行きをみると、少しずつ増加していることが分かる。
商品の企画は18年春、麦茶の市場調査からスタートした。最初は幅広い世代に受ける麦茶を目指し、コンセプトも「爽健美茶ブランドから出す」「機能成分を押し出す」「様々なブレンドを試す」などの方向性があったという。ユーザー調査を繰り返すうちにシンプルな味わいに価値を見出し、19年春にコンセプトが決定。若者にターゲットを絞ったのは20年初めだ。マーケティング本部ティーカテゴリーグループマネジャーの新田祐一郎氏は、「若者が食事と一緒に麦茶を圧倒的に飲んでいることに着目し、その人に向けた麦茶を作ることを決めました」と語る。
最大の課題は味だった。竹井氏は「素朴な味わいが重要な麦茶において、他社と差別化したいが、特徴を出し過ぎると飲みやすさが損なわれる。そのバランスを取るため、原料選びや焙煎の仕方を決めるのに2~3年かかった」と振り返る。世界中からコンセプトに合いそうな大麦をかき集め、濃さ、香ばしさ、甘みなどを少しずつ変え、試した組み合わせは200以上。最終的にはカナダ産の大麦に決定したという。
味に加え、パッケージデザインもこだわり抜いた。暖簾の他、麦茶のシズル感を強調したものや、麦自体をダイナミックに表現したもの、若者に受けそうなポップなデザインも検討された。そんな中、竹井氏は「人の手を介したぬくもりを感じてもらえる親しみやすいデザインが、(調査対象の)若者にとっても新しく映ったのではないか」とみる。実は650ミリリットルの容器は新しく制作し、丸みがあって持ちやすく、非常にシンプルな構造にした。味からパッケージ、容器に至るまで、すべてを商品コンセプトに沿って統一したのである。
増える麦茶需要。差別化が鍵
この10年、麦茶は成長市場だった。調査会社の富士経済(東京・中央)によると、10~19年の平均成長率が16%。20年は新型コロナウイルス禍で減少したものの、21年は1480億円規模になると予想する。
10年の日本の平均気温は、過去113年間で最も高くなり、全国的に記録的な猛暑となった。暑さ対策としてはスポーツドリンクが定番だったが、ノンカフェインで健康的な麦茶が子供や女性から見直され、少しずつ習慣化していった。12年にはキリンビバレッジの「キリン 香ばし麦茶」、13年にはサントリーのやさしい麦茶が発売されるなど、消費者の選択肢が増加したことも普及を後押しした。
やかんの麦茶の発売に伴い、「茶流彩彩 麦茶」は販売を終える予定。17年に発売した「爽健美茶 健康素材の麦茶」は引き続き販売する。コロナ禍では、家にいる時間の増加とともに手入れのお茶を飲む機会が増えている。やかんの麦茶は今後、季節ごとのマーケティング戦略を展開し、家庭内でもペットボトルで飲むシーンを増やしていく考えだ。
(日経トレンディ 寺村貴彰)
[日経クロストレンド 2021年03月04日の記事を再構成]
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