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答えと解説

正解は、(4)20~30年です。

増加の一途をたどっている認知症は、誰もがかかりたくない病気の代表でしょう。認知症患者は、2025年には700万人に達すると予想されています。もはや認知症は決して珍しい病気ではなく、誰がなってもおかしくない時代に突入しています。

近年、認知症が大きな問題になっているのは、日本人の寿命が延びているからという事情もあります。認知症の発症は年齢とともに高まります。以前なら、認知症を発症する前に脳卒中や心筋梗塞、あるいは感染症などの病気により亡くなっていたものが、寿命が延びることにより認知症を発症する年齢まで長生きする人が増え、結果的に認知症患者が増えているわけです。

認知症の7割近くを占めるアルツハイマー病

認知症には大きく4つのタイプがあります。最も多いのは「アルツハイマー病」。主に、脳にアミロイドβというたんぱく質がたまることで神経細胞が壊れていくもので、認知症全体の7割近くを占めるといわれています。次に多いのが「血管性認知症」。脳梗塞や脳出血によって脳の神経細胞が死滅してしまいます。さらに、シヌクレインというたんぱく質が原因で起こる「レビー小体型認知症」、脳の前頭葉や側頭葉が萎縮する「前頭側頭型認知症」が続きます。

この中で、多くの人が気になるのはアルツハイマー病でしょう。前述したように、アルツハイマー病はアミロイドβというたんぱく質が脳にたまるところから始まります。アミロイドβがたまると脳に老人斑というシミができ、やがて神経細胞が破壊されて脳が萎縮していきます。

最初に起こる症状は記憶障害です。認知症の専門家である国立長寿医療研究センター もの忘れセンター長の櫻井孝さんは、「アルツハイマーでは早期から海馬に強い萎縮が見られ、病気の進行とともに脳全体が萎縮していきます」と話します。記憶をつかさどる海馬の神経細胞が破壊されることで、記憶を保てなくなるわけです。

何十年も昔の古い記憶よりも、昨日今日の新しい記憶から先に失われるのが特徴です。年を取ると脳の機能が低下して誰でも“もの忘れ”が増えますが、もの忘れが「部分」を忘れるのに対し、認知症は「全体」を忘れます。簡単に言うと、昨日の夕食の内容を忘れるのがもの忘れで、昨日夕食を食べた記憶がないのが認知症です。

アミロイドβがたまり始めてから発症するまで20~30年かかる

アルツハイマー病はどのようなプロセスを経て進行していくのでしょうか。下の図にあるように、アルツハイマー病は、正常な状態から「前臨床期」⇒「軽度認知障害(MCI[注1])」⇒「認知症」という流れで進行していきます。脳の萎縮や認知機能の低下は、前臨床期の後半から始まり、MCIのフェーズで一気に進みます。

[注1]MCIは、日常生活に支障はないが、認知機能が低下している(もの忘れが多くなる)状態で、認知症の前段階に当たる。MCIと診断されても、正常に戻ることができる可能性がある。

アルツハイマー病の進み方とアミロイドβの蓄積の関係

(Lancet Neurol. 2013;12(2):207-216.を一部改変)

アルツハイマー病の主原因とされるアミロイドβの蓄積は、脳の萎縮や認知機能の低下が進行するはるか前の正常な状態から始まっているのです。そこから軽度認知障害に至るまでの間にアミロイドβの蓄積は着々と進んでいますが(前臨床期)、その間に自覚症状(および他覚的症状)はなく、通常の検査では分かりません。

櫻井さんは、「従来、認知症というと、発症した後のところしか見ていませんでした。70歳すぎから認知症患者が増加して、だいたい10年くらいの臨床経過を経るというのが私が学生の頃に教わった認知症の姿です。ところが、ここ10年ほどの研究により、アルツハイマー病が数十年にわたる病気であることが分かってきたのです」と話します。

その背景にあるのが、ここ10年ほどで確立した「アミロイドPET検査」という、脳内にどれだけアミロイドβが蓄積しているかをイメージとして把握できる技術の登場だったと櫻井さんは話します。「この技術により、生きている人の脳内の蓄積状況を把握できるようになりました。大きな技術革新です。PETのデータが世界中から集まるようになり、その結果から、発症時には相当な量のアミロイドβが蓄積しており、さらに前に追跡していくと20~30年前からたまり始めていることが分かったわけです」(櫻井さん)

つまり、アミロイドβがたまり始めてから、MCIを経て認知症を発症するまでには20~30年もの長い時間がかかるわけです。これは、70~80歳で認知症を発症するとしたら、実は40代や50代からアミロイドβがたまり始めていたということです。

ということは、将来の認知症リスクを下げたいなら、40代や50代といった若い世代から、対策に着手することが望ましいということです。

脳の血管の老化を防ぎ、血流を高めるのがポイント

では、具体的にどんなことをするといいのでしょうか。

「対策のポイントの一つが、脳の血管の老化を防ぎ、血流を高めることです。脳の血流が悪くなると(脳の虚血)、アミロイドβの産生が高まるという動物実験のデータもあります。そして、血管の老化を防ぐことは、脳の血管病変を防ぐことにつながります」と櫻井さん。

血管の老化を進める大きな原因となるのが動脈硬化です。そして、動脈硬化を進める要因として、高血圧、高血糖などがあるのも周知の通り。つまり、動脈硬化を引き起こす「生活習慣病」を防ぐ生活、具体的には食生活の改善、そして有酸素運動などを心がければ、血管の老化を防ぎ、さらにアルツハイマー病のリスクを下げることにつながるというわけです。

実際、生活習慣病がアルツハイマー病の発症リスクを高めることはさまざまな研究から明らかになっています。東京医科大学老年病科を受診した113人のアルツハイマー病患者(平均78.6歳)のうち、48%は脂質異常症、42%は高血圧、19%は糖尿病を合併していました(Geriatr Gerontol Int. 2010;10:216-7.)。また、福岡県久山町の住民を対象にした疫学調査(久山町スタディ)から、糖尿病とその予備群がアルツハイマー病を発症するリスクは、血糖値が正常な人の2倍以上になることも確認されています(Neurology. 2011;77:1126-34.)。

写真はイメージ =(c)anyka-123RF

なお、アミロイドβの蓄積が進んでも、必ずしも認知症を発症するわけではないことも最新の研究から分かっています。

米国で75~102歳のシスター678人の協力を得て行われた有名なナン・スタディから、アルツハイマー病を発症するレベルの量のアミロイドβがたまっていたのに、認知症を発症していない人が一定数いることが分かったのです。

「一定量のアミロイドβがたまれば自動的に認知症(アルツハイマー病)になるわけではありません。アミロイドβが一定量たまっていても、知的活動や生活習慣によって、認知症が発症しにくくなる可能性がある、ということです。人間は病変に打ち勝つことができることが分かってきたのです」(櫻井さん)

この記事は、「逃げ切れば勝ち!? 認知症を発症する前に天寿をまっとうするには」https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/19/021300008/021300001/(執筆:伊藤和弘=フリーランスライター)を基に作成しました。

[日経Gooday2021年2月22日付記事を再構成]

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