百田夏菜子 映画初ヒロイン、ももクロと演技の違いは
3月12日公開の映画『すくってごらん』で、映画初ヒロインを務めるのがももいろクローバーZのリーダー、百田夏菜子さん。ももクロでは元気あふれる明るいイメージの強い彼女だが、映画では尾上松也さん演じる主人公が見ほれる和装の美女、生駒吉乃を演じている。
――生駒吉乃は、主人公が憧れる謎の美女といった存在。ももクロの活動で見る百田さんとはずいぶん異なる印象を受けました。
吉乃は口数も多いわけでなく、しぐさや表情や間で見せていくお芝居でしたから、やっぱりむずかしかったですね。役作りもセリフの裏側に隠された気持ちを探っていく作業が多かった。彼女は恋をしている女の子だったので、「この人のことをすごい好きなんだな」と思いながら共演している方を見て研究したり。
特に気をつけたのは吉乃が持つ雰囲気です。独特な雰囲気があるんだろうなと思っていたので、台本を読んでいるときから関西弁と一緒に声のトーンやしゃべりかたは試していました。ただ、結局は読み合わせをしてみないとわからないですからね。最終的にはそこで方向性を決めていく感じになったんですが、監督と方向性のずれはあまり感じなかったので、ホッとしました。
ただ撮影がももクロの明治座公演と重なっていたんですよ(2019年に行われた『ももクロ一座特別公演』。2部構成で、第1部が時代劇の舞台だった)。あの時もずっと浴衣で稽古していたんですが、あの公演で私が演じたのはくノ一で、めっちゃふざけている、「てやんでえ」みたいな役だったんです。一度、映画の撮影を離れて明治座の稽古に行ったことがあったんですけど、映画の撮影に戻ったら、監督から「何かやった?」って言われました。たぶん吉乃なのに、てやんでえ感が出ちゃったんでしょうね(笑)。
――監督は長編デビュー『ボクは坊さん。』(15年)が海外の映画祭でも話題になった真壁幸紀氏。左遷されたエリート銀行員・香芝誠(尾上松也さん)が赴任先で吉乃と出会い、というストーリーですが、演出も予想外で新鮮でした。
私も完成した作品を見たとき、「こんな映画見たことない」って思いましたね(笑)。映像で見ても音楽を聴いても、いろいろな角度でエンターテインメントの楽しみ方が詰まっている。
中でも監督が特に撮影でこだわっていたのは、ピアノを弾いているときの絵。浴衣という衣装も含めて、そこにすごく気を使っていたので、その点は原作の漫画よりも監督の指示に従う形でいろいろ試してみました。
吉乃はピアノが大好きだけど、ある出来事が原因で人前では弾けなくなっている。だからこそ一人でピアノを弾いているときに、外に出せない感情が表れていたりすると思うんです。ピアノに乗せる気持ち、隠された思いをずっと探しながら、撮影に向かっていました。
――ライブに臨むときと撮影に向かうときの気持ちの違いは?
自分か、自分じゃない人か、かなあ。ライブではステージに私自身が立っているけど、お芝居だとその役と常に向き合っているので。ただライブでも普段の私とは違う、ステージ上での自分もありますので、そういう意味では共通している部分も多いかなとも思っています。
あとは作り方ですかね。ライブは生ものですからどれだけ準備をしても何が起こるか分からない。お客さんも会場も違うし、同じ曲を歌ってもまったく同じになることはないですから。その空気感やハラハラドキドキが楽しかったりもします。映画のような作品を作るときは、こちらが意図するものをお届けするために、画面の中をどう作るかを考えながら進めていく。一つの作品を作っていく中で、自分じゃない人、自分じゃない人生を演じさせてもらう楽しさがあります。そうやって作り込んでいく作業も好きですね。
一生懸命やってきたことが別の場所へ連れて行ってくれる
――映画のキーとなるピアノですが、ピアノを弾くのは初めてだったそうですね。
まったくの初体験。だから撮影に入る前にピアノの練習から始まったんです。ピアノの先生にドレミファソラシドの弾き方から教えていただきました。ピアノのペダルが何のためにあるのかも知りませんでしたから。
ただせっかくピアノを習うのだから、映画で弾く曲だけを丸覚えして終わりにはしたくなかったんです。ももクロの現場では時間がないからと「そのときだけのために覚える」ということも多かったりするのですが、もっと基本から知りたいというか。なのでピアノという楽器がどういうものかから教えていただきました。
実は昨年末、ももクロの配信ライブ(大みそかに大勢のゲストを招いて開催した『第4回ももいろ歌合戦』)で、尾上松也さんとの共演で映画の曲をピアノ演奏したのですが、撮影から時間がたっても弾けたのはそういう勉強の仕方がよかったのかなとも。
とはいえ、お話が来たときは、「なぜ私のところに来たんだろう」とは思いましたね。以前、土屋太鳳ちゃんと共演したドラマ『約束のステージ~時を駆けるふたりの歌~』(読売テレビ)も、ギターを弾く歌手志望の女の子の役だったんですが、あのときも「このキャスティング、私でいいのか」って(笑)。
――でも東京ドームや旧国立競技場をライブで満員にしながら、NHKの連続テレビ小説に出演したこともある人って、そう多くないと思いますが。
え~、でも私だったら、絶対に私にキャスティングはしませんけどね(笑)。
ただアイドル活動を続けてきて、一生懸命やってきたことが予想もしていなかった違う場所に連れて行ってくれるという経験は何度もしてきました。いつも不思議で面白いと思うし、やっぱりうれしいです。
だから今回もすごくうれしかった。うれしかったんですけど、でも、撮影でピアノを弾きながら「どうして私のところに話が来たんだろう」とは思っていました(笑)。
銀行員・香芝誠(尾上松也)は上司への失言が元で、東京の本店から田舎の支店に左遷されてしまう。絶望的な気分でひなびた路地を歩いている彼の前に、あでやかな振り袖を着た美女が現れる。心引かれ、あとを追いかけ、彼女が入ったお店ののれんをくぐると、そこは金魚すくいの店だった。
原作・大谷紀子「すくってごらん」(講談社) 監督・真壁幸紀 脚本・土城温美 出演・尾上松也、百田夏菜子、柿沢勇人、石田ニコル 3月12日公開
(日経BP編集委員 大谷真幸、写真 中川容邦、スタイリスト 関志保美、ヘアメイク チエ[KIND]、着付け 二井野三恵)
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