アプリケーション開発を重視する体制に

一つには「世界一」を目標としなかったこと。もう一つは使いやすさや、アプリケーション開発を重視したことだ。

富岳の開発目標に「世界一」という言葉は入っていない。「京の100倍」という性能目標はあるが、ランキングを決めるベンチマークテストでの100倍ではなく、実アプリケーションでの性能が100倍という目標である。また、ハードウエアと並行してアプリケーションソフトを開発するという体制を取ることになった。アプリケーション開発からのフィードバックを得ながらハードウエアを開発することで、より実効性能を高めるためだ。

富岳が京から一番大きく変えたのはプロセッサーの技術に「アーム」を採用したことだ。これもアプリケーション開発を重視してのものだ。

京では「スパーク」というプロセッサーを使っていたが、仲間づくりがうまくできず、産業面ではあまり使われなかった。京の技術を使った富士通のスパーク搭載スパコン商用機もあまり売れなかった。富士通は京の開発に自社からも400億円を出費しており、商用機が売れないとビジネスとしては行き詰まってしまう。

そこで、富岳ではスマホや組み込み用などで広く使われているアームを採用したのだ。理研の松岡聡計算科学研究センター長によると富岳の上で「パワーポイントも動作する」という。

先代のスーパーコンピューター「京」(提供:理化学研究所)

富岳の技術は京を継承

ただ、アームを使ったといっても、「命令セット」と呼ばれるアプリケーションから見たときのインターフェースだけだ。富岳のプロセッサーの中身は京を継承している。

京もトップ500だけでなく3種類のベンチマークで1位を取ったことがある(残り1つのベンチマークは2020年に始まったばかりで富岳しか1位を取っていない)。それだけ優秀な設計だったということだ。プロセッサー単体が優れていただけでなく、プロセッサー間で通信を行う「インターコネクト」も富士通の独自設計で非常に高性能だった。富岳はインターコネクトも京を継承している。富岳が様々なベンチマークテストで2位に大きな差を付けたのは京から続く技術のたまものなのだ。

世界一を目標として挙げていなかったとはいえ、結果として世界一を取れた。「複雑で難しいアプリケーションで性能が出せるのであれば、基本的なベンチマーク性能が出せるのは論理的に当たり前のことです。だが、実際に1位を取ろうとするとなかなか難しい。結果としてちゃんとベンチマークでも性能が出ることを証明できてほっとしています」と、富士通システムプラットフォームビジネス部門プラットフォーム開発本部の清水俊幸プリンシパルエンジニアは語っている。

(日経BPクロスメディア編集 松原敦)

富岳 世界4冠スパコンが日本を救う 圧倒的1位に輝いた国産技術の神髄

著者 : 日経クロステック編集
出版 : 日経BP
価格 : 1,980 円(税込み)

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