料理とピッタリ酒精強化ワイン 家飲みにオススメ5本
エンジョイ・ワイン(36)
コロナ禍で世界的に家飲み需要が高まっているが、昨年から今年初めにかけて、ワインにうるさい英国人の間で人気を呼んだワインがある。ワインに蒸留酒を加えて造る酒精強化(フォーティファイド)ワインだ。酒精強化といってもアルコール度数が比較的低いものも多く、味わいも辛口から甘口まで様々。産地によって個性も違う。食前酒、食後酒のイメージが強いが、料理との相性も実は優れている酒精強化ワインの魅力を紹介する。
酒精強化ワインといえばスペインのシェリーやポルトガルのポート、ポルトガルのマデイラ島で造られるマデイラ、さらにはイタリアのシチリア島で造られるマルサラが代表格。他にも、南フランスのVDN(ヴァン・ドゥー・ナチュレル)やオーストラリアのラザグレンマスカットなどがある。
共通するのは、発酵途中か発酵後にアルコール度数が最高90度台の蒸留酒を添加し、ワインの最終的な度数を15~20度前後に高める点。普通のワインの度数(11~14度)と比べると、確かに高い。ただ、米カリフォルニアなどブドウの糖度が上がりやすい産地では、普通のワインでも度数が15度を超えるものもあり、酒精強化ワインが際立ってアルコール度数が高いというわけではない。日本酒とほぼ同じ度数といっていい。
辛口か甘口かは蒸留酒を加えるタイミングで決まる。発酵の早い段階で添加すると、ブドウの糖分がアルコールに転換されずまだ大量に残っているため、仕上がりは甘口になる。一方、発酵しきった後に添加すると、糖分が残っていないので辛口になる。使用するブドウ品種や蒸留酒の種類、熟成の方法、期間によっても味わいは異なる。
酒精強化ワインは中世の英国人が広めたといわれている。まだガラス製のボトルが普及していなかった時代に、スペインやポルトガルからワインを輸入する際、長旅による品質の劣化を防ぐために蒸留酒を加えたところ、品質が安定し、味わいも英国人好みになった。このため、英国で人気が出たとされる。
酒精強化ワインの国別の輸入量を見ると、今でも英国は、シェリーは1位、ポートはフランスに次ぐ2位だ。その英国で昨年、小売店での酒精強化ワインの売り上げが、量で前年比7.5%、金額で同12%増加したと、専門誌ドリンクス・ビジネスが報じている。シェリーは各13%、15%とひときわ伸びが大きかった。今年に入ってからも好調を維持しているという。
正確な理由は定かでないが、量より金額の伸びが大きいのは、比較的、高価格帯の商品が売れていることを示唆している。世界的なコロナ禍で外出がままならない中、家飲みでプチ贅沢(ぜいたく)を楽しむ英国人の姿が浮かんでくる。
ワインの楽しみ方は人それぞれだが、前菜など軽い味わいの料理には、ラベルに「フィノ」や「マンサニーリャ」と書かれた辛口のシェリーがおすすめだ。このタイプのシェリーは、樽(たる)に入れたワインの液面を産膜酵母の膜で覆った状態で熟成させるため、酸化を招く酸素との接触が減り、キリっとフレッシュな味わいになる。
日本でも手に入りやすい「ティオ・ペペ フィノ」(参考小売価格2670円)は、辛口の日本酒を升で飲んだ時のような味わいで、鮨(すし)との相性もよさそうだ。
同じ辛口のシェリーでも、「アモンティリャード」や「オロロソ」と表示されたタイプは、フレッシュ感よりもコクが持ち味。例えば、「ペマルティン オロロソ」(希望小売価格2400円)は、マホガニーのような色合いで、樽(たる)を使った酸化熟成の特徴であるキャラメルのような甘い香りやアーモンドなどナッツ類の香りを発散させている。
色や味わいが紹興酒に似ているが、実際、ワインバー「ロスビノス」(東京・品川)のオーナーソムリエでスペインワインに詳しい櫻井一都さんは「中華料理にぴったり」と話す。
香りに華やかさを求めるなら、マデイラの辛口「ブランディーズ マデイラ セルシアル 5年」(輸入元小売価格3600円)がおすすめ。オレンジピールやドライアプリコット、クルミ、薫製など様々な香りがグラスから飛び出してくるようなワインだ。
マデイラの複雑な味わいは昔、赤道近辺を航行する船に積んだマデイラ島のワインが熱で温まったことにより生まれた偶然の産物だが、今でもその伝統を受け継ぎ、加熱を伴う独特の熟成方法で造られている。
地場品種のセルシアルから造られたこのワインは、辛口だが糖分も比較的多く、口当たりはまろやか。酸味もしっかりしているので、味わいのバランスが素晴らしい。サラダや魚料理とはもちろん、鶏肉を使った料理とも合いそうだ。
少し甘めが好みなら、セミドライ(中辛口)タイプのイタリア・シチリア島の酒精強化ワイン「マルコ・デ・バルトリ マルサーラ スペリオーレ ヴィーニャ・ラ・ミッチャ」(500ミリリットル、参考小売価格4400円)はどうだろうか。マルサラもやはり、18世紀にシチリア島を訪れた英国人のアイデアから生まれたとされている。
このマルコ・デ・バルトリのマルサラは、琥珀(こはく)色に輝き、ドライプルーンなど果実の凝縮した香りに加え、キャラメルやアーモンドなどの香りが鮮やかに広がる。酸味も豊かで、かなりさっぱりとした甘さだ。中華や、砂糖としょう油で味付けした日本の甘辛料理と合わせると、料理とワイン両方の味わいが引き立つことだろう。
甘口の酒精強化ワインと言えばポートが有名だが、ポート以外にもいろいろな場所で造られている。オーストラリア・ビクトリア州のラザグレンもそのひとつ。ここで、完熟したマスカット系の品種から造られるラザグレンマスカットは、ワイン評論家から高い評価を得続けている。
「チェンバース・ローズウッド・ヴィンヤーズ ラザグレン・マスカット NV」(375ミリリットル、希望小売価格2300円)は、糖蜜のような甘さだが、酸味のおかげで甘さに切れがあり、重すぎない。デザート代わりにぴったりだが、フォアグラやブルーチーズと合わせてもおいしい。バニラアイスにかければ、「大人のアイスクリーム」になる。
酒精強化ワインはアルコール度数が高いため、抜栓後の日持ちが普通のワインより、はるかによい。これも家飲みに向いているといわれる理由の1つだ。
(ライター 猪瀬聖)
※商品の価格は税抜き、断りのない場合は750ミリリットル
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