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千と一の教会あったアルメニア 打ち捨てられた都の今

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ナショナルジオグラフィック日本版

トルコの都市カルスの東に、寂しげに立ち並ぶ中世の教会建築群がある。広大な草原に、八角形の塔、崩れかけた壁、倒れた円柱が散らばっている。そして、トルコとアルメニアとの国境となるアクフリアン川に注ぐ峡谷には、途中で折れた古い橋もある。

これらの遺跡はすべて、中世アルメニアの首都アニの名残だ。アニは国際都市として栄えた。紀元300年代初頭、世界でも最初期にキリスト教を国教として受け入れたのが古代アルメニアだ。5世紀の要塞が残るアニは、10世紀に中世アルメニアの首都として選ばれた。10万もの人が暮らすようになったこの都市は、数々のキリスト教建築に彩られ、「千と一の教会がある都」と呼ばれるようになった。

黒海とカスピ海の中間の交易路沿いという戦略的な立地に魅力を感じた諸勢力によって、アニは何世紀にもわたって侵略を受け続けた。ところが、ある時を境に打ち捨てられ、長い間忘れられたままだった。

16世紀にオスマン帝国に吸収された後、アニは衰退して人々の記憶から消えていったが、19世紀初頭、欧州の旅行者がこの中世都市の遺跡を訪れるようになる。

アニの遺跡はオスマン帝国、ペルシャ、ロシア帝国の国境がぶつかり合う、地政学的な断層線上に位置していた。政治的な緊張が高まるにつれ、アニを訪れることは困難になっていった。そんな中でも、アニを訪れて調査をする人もいた。やがて、それが学者の興味を引くこととなる。

1817年、英スコットランドの外交官で旅行家のロバート・カー・ポーターがこの地を通り、印象を記している。ここにある「不気味な遺跡」は、「残忍な略奪者」が隠れるのにはおあつらえむきだとしながらも、彼がつづった文章からは、ポーターの興奮が伝わってくる。「街に入ったとたん、地面全体が壊れた柱頭、凝った装飾が施されたフリーズなど、かつての荘厳さを忍ばせるものに覆われているのがわかった」

中には、傷が少ない教会も残るが、それさえもポーターは「時と荒廃が、大きな傷痕を残す他の建造物と同じく、教会はぽつんと寂しげに立っている」と書いている。

「聖なるキリスト教の象徴が、さまざまな場所に取り入れられている。血のように赤い大きな石塊が塔の石積みに組み込まれて、巨大な十字架を形成し、破壊せんとするイスラム教徒の手を阻んでいる」。1839年、アニの防御の堅固さとキリスト教図像の存在に感銘を受けた英国軍大尉リチャード・ウィルブラハムは、こう述べている。

このように、アニが学術的な興味の対象となる機会もあったものの、アニの風化は、その後も進んでいった。考古学者たちが正式な調査でアニを訪れたのは、それから数十年後だった。

アルメニア王国

いにしえのアルメニア王国は、現在のアルメニアよりもはるか遠くまで版図を広げていた。ペルシャ人、セレウコス朝、パルティア人、 ローマ人などに従う時代を経て、帝国が興亡を繰り返しても、アルメニア人は消え去ることなく、ここで生き続けたのである。

キリスト教がアルメニア史において中心的役割を果たすようになったのは、まだこの宗教が生まれて間もない頃のことだ。キリスト教はこの国に根付き、ビザンツ帝国、ササン朝、アラブ系イスラム教徒の支配を受けても、キリスト教国アルメニアが変わることはなかった。

 10世紀には、アルメニア北部でバグラトゥニ朝が権力を握った。王のアショット3世(952~977年)は、アニを首都として選んだ。977年から989年にかけて、アショット3世の跡を継いだスムバト2世が、街の北側に円塔のある二重の城壁を築いた。シルクロードの一部を形成する交易路は、経路を変えてこの街を通るようになった。富を手に入れた支配者たちは、さらに多くの教会を建て始めた。

最初期に建てられた教会の一つであるアブガムル家の聖グレゴリオ教会は、有力なパヒラヴニ家の私用礼拝堂として建てられた。アニの多くの教会と同じく、その立地は意図的に選択され、かなり離れた街中からでも見えるようになっていた。

11世紀初頭、アニはガギク1世の統治のもとで繁栄し、赤、黄色、黒など、多様な色彩を持つ地元産の玄武岩を使って、より多くの教会が建てられた。偉大なアルメニア人建築家トゥルダトの手による堂々たる大聖堂のほか、3つの教会が、11世紀前半、この街の城壁を見下ろしてそびえ立った。その教会のうちの一つである救世主教会の円屋根は、完全な円形の基部の上に載っており、その内部には聖十字架(イエスのはりつけに使われたとされる聖遺物)の欠片が収められていた。

1064年に、セルジューク人が攻め入ってきた。これ以降、アニは外部諸勢力の支配を受けるようになっていく。11世紀末には、そうした勢力の一つであるイスラム系のシャッダード朝の支配下で、マヌーチヒルのモスクが建造された。キリスト教徒による支配はジョージア(グルジア)王国のもとで再開され、この時期にさらに多くの教会が建てられた。1215年に建造されたティグラン・ホーネント(アルメニア人寄進者)の聖グレゴリオ教会もその一つだ。

13世紀になると、アニはモンゴル人の略奪を受け、これをきっかけとして衰退に転じる。交易路が別の場所へと移ると、商人もアニを離れていった。そして1319年、アニは地震で大きな被害を受ける。ペルシャ人のサファヴィー朝に一時支配された後、16世紀にはアニは正式にオスマン帝国に吸収された。その後、人々が去り、アニはゴーストタウンとなった。

希望と絶望

1878年、ロシア帝国がアニの周辺地域を占領した。カー・ポーターやウィルブラハムらによる発見があったことで、ロシアは、東方キリスト教にとって重要だったアニに強い関心をもつ。1890年代には、ロシアが支援する、ジョージア生まれの学者ニコライ・ヤコヴレヴィチ・マル率いる調査団によって、古都アニの発掘が行われている。

マルが先鞭(せんべん)をつけたこの調査は1917年まで続けられ、橋や道路がかつては川の上にそびえる峡谷にかかっていたことなど、アニの壮大な歴史の一部が明らかになった。

しかし、近代のアルメニアはロシア(後のソ連)とトルコが、アニ周辺の土地をめぐって争った戦争によって、引き続き苦しめられた。1915年に始まったオスマン帝国によるアルメニア人の虐殺――オスマン帝国はアルメニア人がロシア側に味方していると考えていた――は、100万人(150万人とも言われる)もの命を奪った(多くの歴史家が、近代世界で最初のジェノサイド=民族大量虐殺=としている)。

20世紀後半、アニはまたもや地政学的な断層線上に戻る。このときはNATO(北大西洋条約機構)に属するトルコと、ソビエト支配下にあるアルメニアの間の国境争いだった。現在、アニはトルコ領とされ、アルメニア人は異を唱える。2016年、アニの古代遺跡はユネスコの世界遺産(文化遺産)に加えられた。

時の流れの中で繰り返し軍隊が押し寄せてきた、この静寂に満ちたアニの遺跡は、アルメニア人にとっては常に特別な場所だった。アルメニア人虐殺の後、この場所は以前にも増して、アルメニアが失ったものとその驚くべき不屈の精神を今に伝える力強い証となっている。

次ページでも、かつての栄華を思い起こすことも難しい、打ち捨てられた王都の今と遺物をご覧いただこう。

(文 ANTONIO RATTI、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2021年2月28日付の記事を再構成]

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