2021/3/21

伝統への回帰とコミュニティー

マルディグラのコスチュームや装飾、ダンス、フロートから観客に投げ込む品物たちは、彼らが1年がかりでこつこつ準備してきたものだ。これらの儀式は、ニューオーリンズの社会や家族の基盤となるだけでなく、フロートのデザイナー、ビーズ店、花屋、写真家、文房具店、帽子屋、工芸品店、レストラン、バー、ケータリング業者、アーティストなど多くの産業も支えている。

カーニバルのドレスのデザイナーであるスザンヌ・ペロンさんは、パレードがない今年は、マルディグラのお祭り騒ぎではなく芸術性にスポットライトが当たっていると感じている。それでも彼女にとっては、まったくふるわない年だったという。

ニューオーリンズのラトーヤ・カントレル市長は、マルディグラの日に大規模な取り締まりを行うと発表した。市内のバーは閉鎖され、フレンチ・クオーター地区での酒類の販売、大道芸人のパフォーマンス、物売りは禁止された。その一方でマルディグラ見物の観光客を歓迎するという矛盾した対応を打ち出した。

バーボン・ストリートやフレンチマン・ストリートのような繁華街は、ホテルやショップやレストランの客しか利用できないことになった。ニューオーリンズの黒人コミュニティーの祭りの中心地の1つであるノース・クレイボーン・アベニューの地下道は封鎖された。

マルディグラ・インディアンのグループ「ブラックホーク・ハンターズ」のビッグチーフである17歳のテレンス・ウィリアムズ・ジュニアさんは、この決定を悲しく思っている。「僕はあの地下道で初めてマルディグラ・インディアンを見たのです」

マルディグラの日にコスチュームをつけたマルディグラ・インディアンが出てくると、人々はその周囲に群がってコスチュームの見事さに感心し、チームが歌う伝統的な歌を聞きたがる。ウィリアムズさんは、コミュニティーの多くのリーダーと同じように、市当局が新しい規制を発表する数週間前に、自分たちのチームはマルディグラの日にコスチュームを着用しないと決めた。

「マルディグラ・インディアンはコミュニティーのためのものです。コロナ下の今、僕は自分のコミュニティーの安全を優先したいのです」と彼は言う。「僕は群衆を集めたくありません。辛いことですが、そうすることでパンデミックを乗り切ることができます」。彼はすでに来年のマルディグラのコスチュームを縫い始めている。

例年、ニューオーリンズの通りをパレードしていたジョージ・ワシントン・カーバー高校のマーチングバンド「カーバー・ラムズ」は、今年は校内で演奏し、教師や家族が車の中からその様子を見守った。マルディグラは最上級生にとっては卒業前の最後の晴れ舞台だった(PHOTOGRAPH BY AKASHA RABUT)

前に向かって進む

ノースサイド・スカル・アンド・ボーンのバーンズさんも同じ考えだ。ある日曜日の午後、彼は200年前の先人たちと同じように、小麦粉と梱包用ワイヤと新聞紙で精巧な頭蓋骨の仮面を作った。違いは、彼がこれをかぶることはないということだ。バーンズさんのチームもまた、市当局の発表の数週間前にマルディグラへの不参加を決定した。

ノースサイド・スカル・アンド・ボーンがパレードを行うのは夜明け前なので、ほとんどの人は、彼らの姿を見ることも、その声を聞いて人間の死すべき運命を思うこともない。けれども誰もがその一部なのだとバーンズさんは言う。

バーンズさんは、今年はマルディグラの精神を尊重し、キャンドルを灯し、祭壇をしつらえ、ニューオーリンズがこの1年に失った文化的指導者のために祈りをささげたいと言う。

彼は、コロナワクチンが来年への希望をニューオーリンズに与えてくれると言う。今の混乱がおさまり、ニューオーリンズの通りで再びダンスが踊れるようになることを楽しみにしている。「その日まで、お互いに気をつけなければいけません」

地元のフラッグダンスグループ「フレーミング・フラジェッツ」は、事前に録画した動画を公開することで今年のマルディグラに参加した。リーダーの1人であるジェイコブ・レプタイルさんは、「人だかりを作ったり、市民を不安にさせたりしたくなかったので、皆さんの1日を明るくするパフォーマンスの動画を公開しました」と言う(PHOTOGRAPH BY AKASHA RABUT)

カーニバルのシーズンが終わり、アンジェラさんと一緒に仕事をしているアーティストの多くが来年に向けた準備を始めた。彼らは家の装飾が新しい伝統になることを願って、装飾用の造花を作っている。

「ニューオーリンズはマルディグラをあきらめません。成功するためには、人は変わっていかなければなりません。この街を止めることはできません。ニューオーリンズ魂は人から人へと伝染します」

次ページでも、2021年のマルディグラのニューオーリンズの人々を写真でご覧いただこう。

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