自宅が山車?コロナで中止も、生き続けるマルディグラ

2021/3/21
ナショナルジオグラフィック日本版

2020年のマルディグラのために作った手縫いのコスチュームを着てポーズをとる17歳のテレンス・ウィリアムズ・ジュニアさん(PHOTOGRAPH BY AKASHA RABUT)

米国ニューオーリンズのマルディグラと言えば、リオのカーニバルなどと並んで世界屈指のカーニバル(謝肉祭)だ。しかし、同地で地元のアーティストの作品を販売するアンジェラ・エステベスさんは絶望していた。パンデミック(世界的大流行)の影響で売り上げが激減し、そう遠くないうちに店を閉めることになりそうだったからだ。

そんなとき、不思議なことが起きた。

市当局が2021年のパレードの中止を決定した途端、市民が自然に動きはじめたのだ。彼らは地元のアーティストに依頼して、自宅を山車(フロートと呼ぶ)のように装飾させた。まもなく近所の家々は、極彩色の飾りや地元の伝統をモチーフにしたファンキーな作品で埋め尽くされた。

おかげでアンジェラさんの店の売り上げは大きく伸びた。彼女はこのことに感謝しながらも、ダンスチームやコスチューム製作者の苦しみに思いをはせる。彼らもまた街のマルディグラ文化の担い手であるが、今年は活躍の機会がないからだ。

ニューオーリンズで小売業を営むアンジェラ・エステベスさんは、今年、市内で初めて自宅をフロート(山車)にした。彼女は地元出身のミュージシャン「ドクター・ジョン」のアルバムにちなんで、作品に「ナイト・トリッパー」と名付けた(PHOTOGRAPH BY AKASHA RABUT)

今回のパンデミックは、米国人の生活におけるあらゆる格差を明らかにしただけでなく、カーニバルを取り巻く環境の脆弱さも露呈させた。パレード中止の影響は、ニューオーリンズのクリエイター全体に及んだ。表現の場をなくした製作者やアーティスト、パフォーマーたちは、新しい方法でマルディグラの精神を表現しようとした。

今年のマルディグラまでの数日間、ニューオーリンズの街は色彩ときらめきと音楽の不協和音に満ちていた。パンデミックの中であふれ出た人々の創造力に、未来への静かな希望も感じられた。

20年はコロナ感染の原因に

研究によると、20年のマルディグラは、おそらく数万人が新型コロナウイルスに感染するきっかけとなった。コロナ禍は、ニューオーリンズ社会、特に黒人コミュニティーに甚大な影響を及ぼし、人々を深く傷つけた。

マルディグラでパレードをするグループのひとつで、200年の歴史をもつ「ノースサイド・スカル・アンド・ボーン」のビッグチーフであるブルース・サンピー・バーンズさんは、「私たちがコロナにかかって死ぬわけにはいきません。そんなことになったらカーニバルもマルディグラもなくなってしまいます」と言う。

地元の人々は、このチームが毎年マルディグラの日の早朝に行うパレードを見て、死すべき運命と良き人生を送ることの大切さに思いをはせてきた。「私たちがいなくなれば、このパレードの文化的な記憶をもつ人はいなくなってしまいます。そんなことがあってはいけません」

外の人々から見れば、マルディグラにはお祭り騒ぎというイメージしかないかもしれない。しかし、地元の人々にとってのマルディグラは、学校のマーチングバンドやダンスチームを応援したり、社交界のデビューシーズンを締めくくったりする、家族の伝統を支える行事だ。

それはまた、歴史あるマルディグラ・インディアン(アフリカ系米国人たちのグループ)の豪華なコスチュームを1年がかりで手縫いする努力や、地元の人々がフレンチ・クオーター地区を闊歩(かっぽ)するために派手なコスチュームを用意するプロセスでもある。

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伝統への回帰とコミュニティー
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