イチゴのお買い得はいつ? 冬より出荷量減る春こそ旬
冬から春に出回りが多いイチゴ。クリスマスケーキをはじめ、冬によく売れているイメージがあります。実際、東京都中央卸売市場の「とちおとめ」の流通量をみても、クリスマスシーズンの12月から出荷量が増え、春になる3月以降に減っていきます。イチゴの本来の旬は春です。出荷量が一番多いのは冬なのになぜ春が旬といわれているのでしょうか。
本来の旬は「春」
もともと春にしか作ることができなかったからです。栽培が始まった明治時代は露地栽培、つまり屋外の畑でしか栽培できませんでした。収穫時期も5月前後に限られていたので旬が春とされているんです。昭和30年代になりビニールハウスやガラスハウスといったハウス栽培が発達しました。今は1年中収穫できるようになっています。
東京都中央卸売市場の「とちおとめ」の年間の価格推移をみると10月がピークで、一番安いのが5月~6月です。2020年は10月に1キロ5000円を超えました。日本人の初物好きに加え出荷数が少ないためです。20年の出荷量をみても12月が1310トンなのに対し、10月は2.4トンしかありません。
どうして年末にかけて値上がりするのでしょうか。クリスマスケーキ向けの需要も大きいですが、ほかにも理由があります。栽培方法の違いです。例えば冬に出荷するには、二重のビニールハウスや大型の暖房機を使って「人工的な春」を作る。逆に夏は寒い環境を作って「人工的な冬」を作らなければ栽培できません。
栽培技術の進化でコスト増
最近はハイテク機器を使った栽培技術が進化しており、栽培に最適な温度や湿度を保ったり、日照量を調節したりしています。コストが高い分、冬に出回るイチゴの価格に跳ね返ります。自然栽培のものが多くなる春からは安くなるという構図です。
そもそもいちごの単価も上がっています。東京都中央卸売市場で取引されている「とちおとめ」の年間平均価格は2011年が1キロ933円でした。20年は1315円とおよそ4割上昇しました。
年々、上がっている理由は、品種の増加が背景にあります。イチゴは「甘酸っぱい春の味」といわれているように甘いものではなく、小粒で酸味が強いものでした。長年の品種改良で、甘く大粒の品種が主流になりました。代表的な品種に栃木の「とちおとめ」や福岡の「あまおう」があります。産地ごとにブランド品が登場し開発競争が激化。コストがどんどん上がってしまい、単価に反映されています。
品種も増加、300以上に
農林水産省によると1980年代には35品種でしたが、90年代には87品種までに増加。現在は300品種以上に増えています。贈答用に作られるものが多く高いもので1粒、1万円を超えるものも多く出てきています。
値段が上がっている半面、家庭の需要は減っています。総務省の家計調査(2人以上の家庭の年間支出)は19年に3421円。同じ条件で統計を取り始めた2000年に比べ3割減りました。ブランド化したことで、高級化してしまい、家庭で頻繁に購入する果物ではなくなっています。
このまま値段が上がり続けると家庭の消費は一段と減る可能性はあると思います。しかし、高級化は農家にとっては悪い話だけではないんです。輸出が増えています。海外では甘酸っぱいイチゴが主流。大きくて甘く、丁寧に栽培された日本のイチゴは海外では特産品して人気になっています。15年に400トンだった輸出量も19年は962トンにまで増えています。
海外人気を受けて、長時間の輸送でも傷まないようにする取り組みも始まっています。栃木産のイチゴを市場を介さず直接海外に輸出する取り組みも始まっています。コロナ禍でイチゴ狩りに訪れる人も激減している中、海外需要が市場開拓のカギになるかもしれないですね。
1990年4月。私が記者になって初めて書いた記事がイチゴのニュースでした。アメリカのカリフォルニア州が対日輸出を強化するという内容でした。短い原稿ですが、キャップからかなり直されたのを今でも鮮明に覚えています。思い入れの深いイチゴを旬の春に味わいたいと思います。
(BSテレ東日経モーニングプラスFTコメンテーター 村野孝直)
BSテレ東の朝の情報番組「日経モーニングプラスFT」(月曜から金曜の午前7時5分から)内の特集「値段の方程式」のコーナーで取り上げたテーマに加筆しました。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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