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『日本人のへそ』 必死で探す「役の声」(井上芳雄)

第88回

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NIKKEI STYLE

井上芳雄です。3月6日から紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで上演されるこまつ座の公演『日本人のへそ』に出演します。井上ひさしさんの劇作家としての処女作で、ものすごく凝った構造のはちゃめちゃな作品。過剰なまでのエネルギーにあふれ、僕自身も今までやったことがない役柄を何役もこなして、舞台役者の醍醐味を味わっています。

僕は、井上先生の遺作『組曲虐殺』に出させていただき、人生が変わったと思っています。その井上先生の最初の戯曲が『日本人のへそ』です。1969年の初演以来、再演を重ねていて、今回は10年ぶりの上演。10年前に初めて観劇したときには、いい意味でですが、これは何なんだ……と衝撃を受けました。井上先生の原点ともいえる作品を、今回のカンパニーの皆さんと一緒に演じられるのはうれしく、稽古場に行くのが楽しい毎日でした。

『日本人のへそ』は構造がとても変わったお芝居です。1幕が約1時間50分で、2幕が約50分。長さがずいぶん違うし、作りも全く異なっています。1幕は「吃音(きつおん)症の治療には台詞(せりふ)を喋(しゃべ)るのが一番」と提唱するうさんくさい大学教授が仕立てた劇という設定で、浅草ストリップの華、ヘレン天津の一代記が描かれます。岩手から上京した女子学生がストリッパーになって、ヤクザの女になったりとのし上がっていきます。東北での暮らしから、集団就職で上京し上野駅に降り立ち、浅草に遊びに行ったり、いろんなシーンの連続で、音楽も踊りも多くて、まさに日本のミュージカル。1幕だけでも十分に1本のお芝居として成立するボリュームです。それが2幕になるとガラリと趣向が変わり、謎解きの推理劇になって、どんでん返しがいくつも起こっていくという全く違うお芝居が展開します。

稽古で初めて通して演じたら、2つの作品を続けてやったみたいで、息つく暇なく最後まで突っ走る感じでした。1幕はいろんなコントの連続にも見えて、2幕は会話劇として面白い。僕は会社員という役名なのですが、会社員として出るのは最初のシーンで、その後はヒロインの父親、クリーニング店の店員、浅草のヤクザ、ストリップ劇場のコメディアンとどんどん役が変わっていきます。すごく凝った構造で、ほかの舞台作品では見たことのないような構成なのが特徴です。

初演された1969年の当時、井上先生はコントの台本を手がけたりしていました。山元護久さんと一緒に台本を書いた『ひょっこりひょうたん島』(64~69年、NHK)が国民的人気番組になり、声優として出演していた熊倉一雄さんが主宰する劇団テアトル・エコーに書き下ろした戯曲が『日本人のへそ』です。その後、本格的に戯曲の創作を始めます。

初めての戯曲である『日本人のへそ』には、井上先生の体験が色濃く反映しています。東北の出身で、吃音症があったし、浅草のストリップ劇場でコント作家もしていました。そういう自分が見たもの、聞いたもの、体験したものを含めて書いているのが分かります。ミュージカル映画が好きで、レコードなどを集めていた話は有名ですが、『巴里のアメリカ人』や『ウエスト・サイド物語』といった名作のエッセンスを取り入れているのも随所に感じられます。いろんな豊かなものが詰め込まれたお芝居です。

演出の栗山民也さんは、長く井上先生の作品を演出されていますが、昔から「『日本人のへそ』が一番好き」と言われています。その選択が意外で、ほかにも名作といわれる作品はたくさんあるのに、なぜ『日本人のへそ』なのだろう、と以前から思っていました。理由を聞いたことはないのですが、きっと何度も演じているうちに分かってくるだろうと思いつつ稽古に臨みました。実はまだ、その答えをつかめていないのですが、今感じている作品の魅力はこんなことです。

まず途方もないエネルギーに満ちている。紀伊國屋サザンシアターは500席弱の劇場で、舞台もそれほど大きくないのですが、役者は歌って踊って、袖に引っ込んだ瞬間に早替えして、走ってまた出ていくのを繰り返します。場面ごとに色も全く違っていて、その濃い空間の感覚はほかでは味わえないものです。しかも描かれている時代が高度成長期の日本で、出稼ぎや集団就職がまだ一般的だった頃。当時の匂いのようなものも独特です。日本人がどれほどエネルギッシュで、心が豊かだったかを思い出させてくれます。

 そして、栗山さんが言うには、「これは言葉の劇である」。話し言葉が滑らかに出ない吃音症の人の話でもあるし、東北なまりの少女は東京に染まっていくにつれ言葉も変わっていく。そしてヤクザの女になると、その世界ではまた違った言葉が話されている。

なので栗山さんは役者に対して、言葉を発する声にいろんな注文をつけます。「もっと東北の大地を感じさせる声がほしい」「この振付師は紫色のタイツをはいているのだから紫色の声で出てきてほしい」。僕もヤクザのときは「もっとチープな声で」と言われました。みんな何役もやるので、それぞれの声を探すのが大変で、必死です。コントみたいな要素も多分にあるのですが、演技自体はその人になりきることを求められているので、言葉と声で人間を伝えたいということでしょう。人間のなにか根源的なものを描くのが、この作品のテーマじゃないかという気がしています。

場面ごとにガラリと変わる自分になる楽しさ

小林多喜二の生涯を描いた『組曲虐殺』もそうですが、井上先生の作品は1人の人物に焦点を当てたり、メッセージがはっきりしているというのが僕の印象でした。ところが、『日本人のへそ』はそういう感じではなく、問いかけてくるものが多い作品です。タイトルにしても、劇中で「日本人のへそ」という言葉は出てこないし、なんのことかよく分からない。日本の中心という意味なのか、日本人が一番大事にしていることなのか。それもまた、この作品の問いかけだろうし、多くのものが含まれている作品だと思います。

僕の役のことをいうと、いろんな役を演じ分けた経験はあまりないので、とても楽しいですね。役の声を探すのは大変だけど、それも含めて。今まで演じたことがないようなショッキングな役柄もあるので、ひとつひとつの役柄も新鮮です。栗山さんには、「芳雄の優しいところがまた出ちゃってるな」とか「プリンスじゃないんだから」と言われながらやっています。僕は役を作ったり、全然違う人になるのはあまり得意ではないし、そうしたいという願望も強くないほうだと思います。でも今回は、思い切り違う人を演じる面白さを、初めてといえるくらい感じています。演じるって、役者の仕事って、こういうことかと。場面ごとにガラリと変わる自分になる楽しさって、舞台役者の醍醐味かもしれませんね。

『夢をかける』 井上芳雄・著
 ミュージカルを中心に様々な舞台で活躍する一方、歌手やドラマなど多岐にわたるジャンルで活動する井上芳雄のデビュー20周年記念出版。NIKKEI STYLEエンタメ!チャンネルで月2回連載中の「井上芳雄 エンタメ通信」を初めて単行本化。2017年7月から2020年11月まで約3年半のコラムを「ショー・マスト・ゴー・オン」「ミュージカル」「ストレートプレイ」「歌手」「新ジャンル」「レジェンド」というテーマ別に再構成して、書き下ろしを加えました。特に2020年は、コロナ禍で演劇界は大きな打撃を受けました。その逆境のなかでデビュー20周年イヤーを迎えた井上が、何を思い、どんな日々を送り、未来に何を残そうとしているのか。明日への希望や勇気が詰まった1冊です。
(日経BP/2970円・税込み)
井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)、『夢をかける』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第89回は3月20日(土)の予定です。

夢をかける

著者 : 井上芳雄
出版 : 日経BP
価格 : 2,970 円(税込み)

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