世界の郷土菓子を自宅で 異国情緒味わえる2店
海外旅行になかなか行けなくなってしまった今日、異国の雰囲気を恋しく思う人も多いだろう。それなら、日本でお目にかかることが少ない世界の郷土菓子を扱う店で、異国情緒を味わいたい。
東京・渋谷の「Binowa Cafe」は、世界中の郷土菓子が味わえる店だ。郷土菓子研究社代表で、菓子職人の林周作さんが2016年に立ち上げた。
林さんは料理学校でフランス・イタリア料理を学ぶ中で自分の知らない菓子に出合い、「もっと知りたい」と郷土菓子をめぐる旅に。各国の郷土菓子を研究しながら、自転車で約2年半かけてユーラシア大陸を横断した。現在までに郷土菓子研究のために訪ねた国は50カ国、菓子のレパートリーは500種類を超えるという。
郷土菓子の定義は「歴史があって、その街に根付いているもの」と林さん。ある街の菓子店を何店もめぐる中で、どの店にも定番として置いてあるようなものだという。
Binowa Cafeの店内には、菓子が焼き上がる甘い匂いが漂う。砂糖やバターだけでなくスパイスの香りもするのが、世界中の郷土菓子を扱う同店ならではだ。カウンターには様々な国の菓子が並ぶ。普段は定番の10種類と、期間限定の3~4種を用意していて、ほとんどがテークアウトできる。
一番人気は「カヌレ」。日本でも人気が高まっているフランスの伝統菓子だ。アゼルバイジャンの「シェチェルブラ」やインドの「ベサンラドゥ」など、日本ではなじみがない菓子も定番として取りそろえる。
シェチェルブラはギョーザのような見た目のパイ生地に包まれた焼き菓子で、食べると粗糖とクルミのザクザクした食感とカルダモンの香りが口いっぱいに広がる。ベサンラドゥはヒンドゥー教の行事などで出される菓子で、ベサン粉(ひよこ豆の粉)とギー(バターオイル)にレーズンやナッツを合わせ、冷やして丸く固めて作る。口の中でほろほろと崩れ、素朴な風味がする。
林さんは日本向けに味を調整することはせず、なるべく現地に近い味を目指しているという。「その土地の人が食べ続け、手を加えられず残った強さがあるのが郷土菓子の魅力」と話す。「現在は新型コロナウイルス禍で海外に研究に行けないぶん、店に力を入れている。21年は期間限定メニューを精力的に展開し、1年で100種の郷土菓子を出そうと考えている」
一方、世界の「お祝い菓子」を集めている店が、東京・田園調布の「ラ・フェット」だ。代表の吉井七緒美さんは「以前フランス料理店を開いていた時、出産祝いをはじめ様々な記念日に利用するお客様が多いことに気付いた。祝いの席に合う料理やデザートを日々考えていたことが、ラ・フェット立ち上げのきっかけ」と話す。ラ・フェットとは、フランス語で「お祝い」「お祭り」の意味だ。
扱う菓子はヨーロッパ圏のものが多いが、薄く焼いた生地を巻物のように丸めたかたちの、シンガポールの旧正月を祝うお菓子「ラブレター」などもある。こちらは現地そのままの味ではなく、甘さを控え、サイズを小ぶりにするなどアレンジしている。
定番は店名を冠した菓子の詰め合わせ「ラ・フェット」だ。1884年に英ビクトリア女王の孫娘とドイツのバッテンバーグ家の王子の結婚を祝して作られたという市松模様の焼き菓子「バッテンバーグケーキ」や、イタリア・シチリアのカーニバルで食べられていた伝統的な菓子「カンノーリ」など5種を詰め合わせている。菓子には逸話や由来があり、ストーリーを知ることでより一層楽しめる。「特定の日に食べるものもあるが、お祝い事全般で食べるものも多い。日本のショートケーキのような感覚で楽しんでもらえたら」と吉井さん。現在は催事出店が多く、店は不定休。菓子はオンラインストアからも入手できる。
外出を楽しみにくい今の時期、自宅で世界のお菓子を味わってみては。
(ライター・かみゆ編集部 小沼 理)
[2021年2月27日付 日本経済新聞夕刊]
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