絶滅危機のイタチ 30年以上前の細胞からクローン

日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/3/14
ナショナルジオグラフィック日本版

米モンタナ州フォート・ベルクナップ先住民居留地で撮影したクロアシイタチ。野生に残る個体数はおそらく500匹未満でみな血縁関係にある。科学者は、死亡から長時間たった個体からクローンを作り、群れにもっと多様性をもたらそうとしている (PHOTOGRAPH BY SUMIO HARADA, MINDEN PICTURES)

世界で初めて体の細胞からクローンが作られた哺乳類、ヒツジのドリーのことはおそらく耳にしたことがあるだろう。今回は、クロアシイタチのエリザベス・アンを紹介しよう。

 彼女は、米国在来種の絶滅危惧種では初のクローンだ。死後、長期間冷凍保存されていた野生の個体の細胞を使い、クローン化に成功した。

 これは、北米唯一のイタチ科の在来種であるクロアシイタチの保護にとって、画期的な出来事と言える。かつては米西部の広大な地域で見られたクロアシイタチは、農場主や牧場主がクロアシイタチの主食であるプレーリードッグを駆除するにつれて減っていった。1970年代までに絶滅したと考えられていたが、1981年、米ワイオミング州で牧場の犬が小さなコロニーを発見した。

 このわずかな生き残りが、米コロラド州の魚類野生生物局が共同で運営する、飼育下繁殖プログラムの礎となる。その後、繁殖した個体は、中西部に広がる大草原地帯(グレートプレーンズ)の8つの州に再導入された。

 現在の野生の生息数はおよそ400~500匹だと、米国魚類野生生物局のクロアシイタチ回復コーディネーター、ピート・ゴーバー氏は言う。とはいえ、もとの個体のうち繁殖に成功したのは7匹だけで、現在生きているクロアシイタチはすべて血縁関係にある。

 一方、新たなクローンのもとになった個体は、1980年代中ごろにワイオミング州で死亡した、ウィラと名付けられた野生のメスだ。サンディエゴ動物園の母体であるサンディエゴ動物園グローバルでは、世界中の希少種や絶滅のおそれのある種1100種のサンプルを収集、冷凍保存してきたが、ウィラの細胞もこの冷凍動物園に保存されていた。研究者たちは、エリザベス・アンを繁殖させ、その子孫を野生に導入して、より多くの遺伝的多様性を群れにもたらしたいと考えている。

「我々は、かなり興奮しています。もっと言えば、有頂天になっています」と民間のペットクローン会社バイアジェン(ViaGen Pets and Equine)の最高科学責任者、ショーン・ウォーカー氏は話す。同社は、米国魚類野生生物局、サンディエゴ動物園グローバル、バイオテック保護団体リバイブ&リストア(R&R)と共同で、この取り組みを主導してきた。

 今回の成功は、クローンが種の保全の有効な手立てになり得ることを示唆していると、R&Rのエグゼクティブ・ディレクター、ライアン・フェラン氏は話す。また、希少種や絶滅危惧種の細胞を保存する重要性も示していると、サンディエゴ動物園の保全遺伝学のディレクター、オリバー・ライダー氏は言う。

 クロアシイタチはこれまで、ノミが媒介する細菌感染症で、死に至ることもある森林ペストの脅威にも長く直面してきた。現在、クロアシイタチの存続を脅かす主な要因はこの病気だ。研究者たちは、新たな遺伝子多様性が森林ペストへの耐性をもたらすことを願っている。遺伝子の改変もまた将来の選択肢だとフェラン氏は言う。

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