増えるひげそり失敗 小型シェーバーは解決策になるか
大河原克行のデータで見るファクト
男性がひげそりをする際に、電気シェーバーを使うのか、カミソリを使うのかは、それぞれに好みがあり、意見が分かれるところだ。電気シェーバーの手軽さや肌への優しさ、最近の技術進化をもとにそり味の良さを訴える電気シェーバーのユーザーに対し、すっきりとしたそり味や細かい部分までそれるというメリットがあるカミソリユーザーの意見も根強い。もちろん、シーンによって使い分けている人も多いだろう。
そうしたなか、老舗シェーバーブランドのブラウンが、新たに提案するのが持ち運びを前提としたモバイルシェーバー、すなわち「2台目シェーバー」だ。実は、モバイルシェーバーの所有者は極めて少数派だ。
ブラウンの調査ではモバイルシェーバーの市場は17億円規模で、市場全体の2%(金額ベース)しかない。出張が多い人向けの製品が中心で、そもそも2台目のシェーバーは不要だと考えている人も多い。また、モバイルシェーバーは乾電池式、1枚刃が前提であり、そり味やそり心地などに不満が残るという人も多かった。
小型シェーバーの常識を覆す
ブラウンが1月に発売した軽量小型のモバイルシェーバー「BRAUN mini」は、「小型シェーバー分野の大型商品」と自ら称するように、この分野において「常識を覆す提案」と位置づける。
刃が独立して上下に浮き沈みし、肌の凹凸に密着する2枚刃方式を採用。ブラウンの最上位製品となる「シリーズ9」にも採用している900パターンの網目を持つ「ディープキャッチ網刃」により、様々な向きに生えるひげをヘッド全体で根本から捉えることができる。さらにより多くのひげを効率的に取り込む「マイクロコーム」で長いひげを整え、プレカットするトリマー刃により、あらゆるひげに対応し、隙間時間などでの深ぞりを実現する。
「高性能なモーターと密着性の高い2枚刃の搭載により、従来の当社モバイルシェーバーの2倍のカットパワーを実現した。これまでのモバイルシェーバーは、それないのに肌が荒れるというイメージがあったが、新製品はこれらの課題を解決し、日常使いの提案ができる」とする。
また、充電式を採用。5分間の急速充電で1回のひげそりができ、フル充電では40分稼働する。これも従来のモバイルシェーバーとは異なる点だ。
現在はプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の傘下にあるブラウンは今年、創業100周年を迎えており、まさに100年目の挑戦といえる製品に仕上がった。そうした意気込みを示すように、ブラウンの最初のオリジナルモデルである1962年発売のSixtant(シックスタント)を踏襲した、原点回帰ともいえるデザインを採用している点も見逃せない。
ステイホームで増えるひげそりの失敗
実は、ステイホームが広がるなか、ひげそりの頻度が減り、その結果、思わぬ失敗をする人が増えているようだ。ブラウンはそこに対しても、モバイルシェーバーが解決策を提案できるとする。
ブラウンの調べによると、ステイホーム習慣によって、ひげそりの頻度が「減った」と回答した人は78.7%と圧倒的で、1日に1回そっていた人は、47.2%から7.4%に減少。その代わり、2日に1回という人が17.6%から23.1%に増加。3日に1回という人も12.0%から22.2%に、4日に1回という人も4.6%から12.0%に増加している。
また、新型コロナウイルス禍になって、ひげをそり忘れてしまった経験があると答えた人は34.6%と約3分の1に達しており、特に20代、30代では4割にも達している。
そして、新たな生活習慣となったマスクの着用を逆手にとって、「整えてないひげを隠す意図でマスクをした経験がある」と答えた男性は、25.0%と4人に1人にものぼった。特に30代は32.0%と他年代と比較して、多い結果となっている。
だが、その一方で48.4%の男性が、「ひげのそり残しがあると、マスクを着けて話しづらい」と答えているという。
では、ひげそりの頻度が減った結果、起きた思わぬ失敗とはなにか。
調査によると、整えていないひげをマスクで隠した経験があると回答した男性のうち、47.2%が、仕事中にマスクを外さざるを得なくなり、整えていないひげをあらわにして、恥ずかしい思いをしたことがあるというのだ。
ここでは、「クライアント先でお茶を出され飲まざるを得ない状況になった」「会社でスピーチしなくてはいけなくなった」「仕事中に急に『はじめまして』のあいさつが必要になった」「面接で顔を全部みせてほしいと言われた」「顔認証でマスクを外さないといけなくなった」などの理由が挙がっている。
ステイホームの日が増加し、ひげそりの習慣が変わり、うっかりひげをそらずに外出し、マスクで隠していたものの、マスクを外さなくてはならない場面に遭遇し、恥ずかしい思いをしたというケースが意外と頻発しているというわけだ。
4割が「外出先でひげそりしたい」
また調査では、53.8%が夕方にはひげが伸びてきたと感じており、38.2%の人が「外出先でひげをそりたいと思った経験がある」と回答。特に20代は50.4%に達している。
だが、外出先でひげをそりたいと思ったことのある人のうち、40.3%はコンビニなどでカミソリなどを購入して、外出先でひげをそった経験があるとしたものの、そのうち87.0%の人が失敗したことがあると回答。50.6%が「かみそり負けをして血が出た」と答えているのだ。また「肌荒れを起こした」という人が36.4%、「そり残してしまった」という人も35.1%に達している。
ブラウンは、モバイルシェーバーのBRAUN miniであれば、約60×27×110ミリという手のひらサイズで150グラムと軽量なので、2台目のシェーバーとして毎日カバンの中に入れて持ち歩いたり、会社の机の中に入れておいたりできると提案する。
さらに、オンライン会議前の隙間時間にそったり、夕方に気になったひげを気分転換でそったりといった使い方のほか、キャンプでの荷物をなるべく減らしたいというニーズにもあっていると語る。
こうしてみると、コロナ禍の今だからこそ、モバイルシェーバーの利用シーンが増える可能性がありそうだ。ブラウンも「2台目シェーバーを、新たな常識にしたい」と意気込む。
現在はシェアわずか2%のモバイルシェーバーだが、この17億円市場を50億円規模に引き上げるのがブラウンの目標だ。ブラウンの新たな提案がどこまで需要を顕在化できるか注目したい。
ジャーナリスト。30年以上にわたって、IT・家電、エレクトロニクス業界を取材。ウェブ媒体やビジネス誌などで数多くの連載を持つほか、電機業界に関する著書も多数ある。
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