獺祭・久保田・八海山 人気蔵元が生み出す新しい銘酒

旭酒造は、山田錦栽培農家を対象にしたコンテストの優勝米で醸した「獺祭」を製品化し、6本をサザビーズオークションに出品。最高落札額は約84万3750円で、 日本酒の取引額として過去最高額(旭酒造調べ)となった
旭酒造は、山田錦栽培農家を対象にしたコンテストの優勝米で醸した「獺祭」を製品化し、6本をサザビーズオークションに出品。最高落札額は約84万3750円で、 日本酒の取引額として過去最高額(旭酒造調べ)となった
日経トレンディ

「獺祭」「久保田」「八海山」──。日本酒ファンでなくても一度は耳にしたことのある銘酒を手掛ける名門酒蔵が、相次ぎ数十年ぶりとなる大胆なブランド改革や刷新に取り組んでいる。

背景にあるのが、長年人気を支えてきた初期のファンが高齢化し、またライフスタイルの多様化で求められる日本酒が変わってきたこと。圧倒的に強いブランドを築いた各社だが、今まで日本酒になじみがなかった若年層にも好まれる商品を開発し、現代の暮らしの日々の食事に合う銘柄へと変貌を遂げようとしている。

「日本酒ならではのやり方で、もっと発酵の力を引き出せる商品を作るチャレンジができるのではないか。そう考えて生み出したのが、『新生獺祭』だ」。2020年に発売した新製品について、旭酒造の桜井一宏社長はこう話す。

「新生獺祭 純米大吟醸 磨き二割三分」(旭酒造) 酒が本来持つ発酵の力を引き出して作られた「新生獺祭」。実勢価格6600円(720ミリリットル・税込み)

着想は、エクソソームという醸造過程で生まれる成分に何らかの効能がありそうだということ。日本酒造りでは最後は消えてなくなる成分なのだが、残すことができれば今までにない特徴を持つ日本酒ができると考えた。

結果として完成した新生獺祭は、従来の獺祭には無かった絶妙な甘みを持つ、特徴的な日本酒に仕上がった。

従来のイメージにとらわれない次世代の「獺祭らしい獺祭」を作る挑戦も始めている。それが「クラフト獺祭」プロジェクト。入社2~5年目の若手社員が2人ずつタッグを組み、味の設計から洗米、麹作り、仕込み、瓶詰めに至るまで自分たちだけで自由な発想で取り組むものだ。

「獺祭らしい獺祭」とは何かをテーマに、若手社員が一から考えて日本酒造りに取り組むのが「クラフト獺祭」だ

20年は12ペアが通常業務を離れて、一定期間開発に取り組んだ。「かなりレベルの高いものもあった」(桜井社長)といい、完成したものは実際に市販ルートで発売した。数量限定だったこともあり、「飲んでみたい」というファンが買い求めるなど話題を呼んだ。新しい獺祭の姿勢をアピールできたことから、21年もプロジェクトを実施する予定だ。

「久保田」の朝日酒造は20~30代の女性層を狙う

「久保田」を手掛ける朝日酒造の場合は、20年に同社の看板シリーズであるデイリーラインの「千寿」とプレミアムラインの「萬寿」を刷新した。約35年ぶりの大改革である。

デイリーラインの「千寿」

千寿は発酵過程を見直し、低温かつ高い精度で行うことで雑味が少なくすっきりとした味わいに変身させた。「改めて『久保田はおいしい』と言われるように味を再定義した」(平澤聡取締役)。加えて、ワンアイテム展開の路線を転換し、季節ごとに原酒の味が変化することを楽しんでもらおうと合計4商品展開に切り替えた。具体的には、仕込んだ直後の搾りたてのすっきり感を味わえる冬限定の「吟醸生原酒」、秋まで寝かせてまろやか感がアップした秋限定の「秋あがり」などをラインアップ。年間を通じて味の違いを楽しめる。

プレミアムラインの「萬寿」

一方の萬寿は、麹作りを改良し、貯蔵温度を従来よりも5度下げるなどで、味のふくよかさなどをアップ。こちらも、搾りたての「無濾過生原酒」や特別な酵母によりエレガント感が増した「自社酵母仕込」など3ラインアップに増やした。

朝日酒造は、完成した新しい久保田の味を生かし、日本酒を普段飲まない20~30代の女性層を狙った新商品開発にも乗り出した。久保田ブランドを冠した初のリキュール商品「久保田 ゆずリキュール」がそれだ。

「久保田 ゆずリキュール」(朝日酒造)実勢価格1430円(720ミリリットル・税込み)

香りも酸味も強い高知県産ゆずを使い、香りが穏やかで酸味も優しい千寿との組み合わせで上質な甘みを表現した。アルコール度数は9度なので、そのままでも軽い飲み口を楽しめるほか、ソーダや紅茶などで割って飲んだり、凍らせてシャーベットにしてデザートにするといった使い方にも向く。日本酒の世界が縁遠いと感じている女性層の、心理的なバリアを壊す意味で注目を浴びそうである。

「八海山」でおなじみの八海醸造も、メインラインの「大吟醸 八海山」と「純米大吟醸 八海山」を20年にリニューアル。コンセプトは「日常における高級酒の品質をさらに向上させる」というもの。晩酌ではなく、上質さを求めるご褒美需要のための日本酒に生まれ変わらせた。

1000トンの雪を運び込んだ雪室で原酒を寝かせることで、まろやかさを出す「雪室長期熟成」に取り組む

同社ならではと言える挑戦は、「雪室長期熟成」だ。新潟県魚沼地方で古くからある、雪で作った冷蔵庫「雪室」の考え方を採り入れた、巨大な貯蔵庫を建造。冬の間に降り積もった1000トンの雪を運び込み、雪の冷気だけでタンク内の原酒を数年にわたって寝かせるという取り組みだ。熟成を進めることで、角の取れたまろやかな味へと変化するのだという。

19年からは、一度瓶詰めしたうえで雪室内で熟成させる取り組みも開始。火入れしたものを寝かせて、さらにまろやかさをアップさせる試みだ。

「八海山 雪室瓶貯蔵 純米大吟醸原酒 2019年仕込」(八海醸造) 1000トンの雪を運び込んだ雪室で原酒を寝かせることで、まろやかさを出す「雪室長期熟成」に取り組む。実勢価格2277円(720ミリリットル・税込み)

20年10月に1年熟成ものを発売した。21年は2年貯蔵版、22年は3年貯蔵版といった具合に、毎年熟成を深めたものを出荷する。ひとまず24年まで続ける予定だ。1年ごとに飲みきる日本酒の世界にも古酒があるが、蒸留酒やワインのような熟成の概念がさらに広がりそうだ。

(日経トレンディ 高田学也)

[日経トレンディ2021年3月号の記事を再構成]

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