14歳のときに起業家を志し、地元・北海道で「高校生起業家」として注目を集めた、山本愛優美さん(20)。慶応義塾大学環境情報学部2年生の彼女が今、没頭するのが「ときめき」の研究だ。身に着ける人の心拍など感知して色を変えるイヤリングなど、気持ちを可視化できるツールの開発にいそしむ。「実は高校生起業家の肩書が重荷だった」と語る山本さんが研究にたどり着くまでの葛藤や、今後の夢を聞いた。
「アキバでいい部品を見つけたんですよ!」。笑顔の山本さんが耳にかけているのは、現在開発中の“心を可視化する”イヤリング「e-lamp.」だ。
山本さんが最近足しげく通うのは、東京・秋葉原の専門店「秋月電子通商」。おそらく、女子大生がなかなか足を踏み入れない店だろう。先日も常連客から「何を探しているの?」と声をかけられた。球体の中に曲げて入れられる電子部品を探していたことを説明すると、「これがいいんじゃない」とお薦めを教えてもらった。
球体には、電子基盤や発光ダイオード(LED)ライトなどが詰まっている。別の小型機材の先端部分を耳などの体の一部に当てると、スマートフォン上のプログラムが心拍データを受信する。スマホとイヤリングを無線接続するとカプセル内のランプの色が変わり、装着する人の感情が目に見えて分かる仕様だ。心拍だけでは感情は判別できないため、表情や声なども分析できるよう複数のプログラムを組み合わせ、さらに精度の高い製品の開発を進め、年内の販売を目指している。
環境情報学部は湘南藤沢キャンパス(SFC)だが、2年生になってからは矢上キャンパスの理工学部の授業にも参加している。すっかりテック系女子大生の山本さんだが、かつてはプログラミングが苦手で、大勢の高校生とともに学生イベントを運営する高校生起業家という華やかな世界に身を置いていた。そこからどんな曲折があったのか。
「高校生起業家」じゃなくなったら、自分は何者?
「ときめき」を追求しようと思ったのは、高3の進路決定のタイミングだ。高校ですでに起業し、学生イベントや中高生向けの起業コンサルティングなどを手掛けていた山本さん。地元の北海道帯広市で高校生起業家は珍しかっただけに注目され、テレビや新聞などメディアにも取り上げられ、一躍有名人になった。しかし進路決定のタイミングで、「『高校生起業家』じゃない私は何者なのか」という不安が大きくなり、進路も悩み始める。夏休み中の10日間、仕事やイベント参加などで東京を訪れたとき、「高校生起業家」という肩書なしに人生を通じて打ち込めるものは何か、自問自答し、都内の友人にも相談した。
「中高生っていうのを抜きにして、何がしたいの?」
教育格差に問題意識があり、中高生のために何かしたい、と話す山本さんに対し、学生起業家仲間の友人は素朴な質問を投げかけた。そのとき初めて、「ときめき」という言葉が自然と出たという。思い返せば、14歳で起業家を志したときに感じたのは、起業に対するワクワク感だった。
山本さんは起業当初、周囲から「変なやつ」と冷ややかな目で見られた。自分が心の中で本当にやりたいと思っていることに気付けない人、気付いていても周りの嘲笑が不安でその道を選べない人がたくさんいる。そもそも中高生のために何かしたいと思ったのも、「やりたいことをやっている人を嘲笑するような空気」を壊したかったからだ。そんな思いを話すうちに友人から「じゃあ『ときめき』を軸にしたらいいじゃん」と背中を押してもらった。みんなが自分の直感やワクワクを自由に追いかけられるような、“ときめきあふれる”社会を作りたい、と自身の道が見えた気がした。