そもそも、「ときめき」とは何なのか? 広辞苑(第5版)は「喜びや期待のために胸がどきどきする」と定義する。山本さんにとってときめきとは、一瞬で終わる感情ではなく、モチベーションの意味に近い。「人生のコンパス」だとも言う。喜びや「きゅん」とする感情が積み重なると、長期的なモチベーションや行動理由につながると考えているからだ。

事業を畳んだ挫折で見えた、自分の課題

慶応大に合格後、まず着手したのはスマートフォン向けの恋愛ゲームの開発だ。「ワクワクしたり、ドキドキする気持ちが進路を選ぶきっかけになってもいいはず」と考え、憧れの男子学生キャラクターが、学部で学べる内容を教えてくれる恋愛ゲーム「Smart Kiss(スマートキス)」の制作を始め、ベータ版のリリースまでこぎつけた。

だが、ここでもまた壁にぶつかる。正式ローンチまであと一歩のところで、プロジェクトのメンバーから「抜けたい」と打ち明けられたのだ。

実は山本さん自身も、当初の熱意が冷めている自分を感じていた。刺さる層が「乙女ゲーム好きで進学を希望する高校生」と限定的だったせいか、試用版の利用データは予想外に低かった。「自分とわずかな層しか楽しんでくれないかもしれない。それでも時間を投資して作り続ける覚悟はあるのか……」。違和感を感じながらも引くに引けず、ストレスは不眠や疲労感など体調にも現れていた。仲間の脱退をきっかけに、立ち上げから10カ月後の昨年1月、プロジェクトを畳む決意をする。

起業家としては失敗といえるこの経験は、様々な発見を与えてくれた。気付きの1つは、自身に専門性が足りないということだ。「あなたは何の分野で一番なんですか?」。思い返せば、ビジネスコンテストや投資家へのプレゼンなどの場面で、投資家など様々な大人からこう問われたが、なかなかうまく答えられなかった。

「ときめき」を理論的に探究するため、数理心理学や感性工学などを学ぶ

プロジェクトを畳んだ昨年1月から2カ月ほど、IT(情報技術)企業で働いたりしながら色々な選択肢を模索した。「研究者や起業家などで活躍する様々な友人と話す中で、徐々に自分は起業にとらわれず、原点である『ときめき』を追っていきたいということに気付きました」と山本さんは言う。自分自身が起業にとらわれていることにも気付いた。「起業家は、やりたいことをやって社会的に評価される生き方として魅力的でした。それだけに、“起業”というアイデンティティーが見えにくくなれば、人は私から離れていってしまうのではないかと、怖がっている自分がいた」という。昨年3月、様々な学術分野から「ときめき」について理論的に研究しようと決意した。

博士号を取得し、プロフェッショナル目指す

今は、心の動きをモデル化して理解する数理心理学や、人の感性を製品設計やデザインに落とし込む感性工学などを大学で勉強する。山本さんが最近、数理心理学の分野で研究にいそしんでいるのは、女性のメーキャップとときめきの関係だ。マットやラメなど様々な質感の商品があるアイシャドーについて、その光沢感と顔の魅力の関係を分析する。経営学のゼミにも所属し、ここでは起業家の意思決定や事業を続けるうえでの感情の波について調べ、感情と経営との関係を研究している。

研究を軸にしながら、その知見を生かしたプロダクトを開発し、ビジネスと両立も目指している。山本さんは「ときめきはビジネスに生かせる場面がたくさんある」と話す。例えば冒頭のe-lamp.は、ライブのグッズなどとして活用できるはず、と想定する。新型コロナウイルスの流行で、ライブなどでは観客が会場で声を出して楽しむことができなくなった今、e-lamp.をペンライトのように使えば「声の代わりに光で一体感を演出し、気持ちを共有できるソリューションになるかもしれない」と考える。

高校生起業家として注目を集めた20歳は、「起業や研究にこだわらず活動していきたい」と話す。博士号の取得を目指すが、起業や研究はあくまで「社会に影響を与えるための手段」だという。唯一無二のプロフェッショナルを目指して、未知の分野の探求を続ける。

(ライター 菊池友美)

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