182人が無罪 冤罪で苦しむ米国の元死刑囚

日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/3/7
ナショナルジオグラフィック日本版

サブリナ・スミス氏:服役5年。その半分は死刑囚監房。1995年に無罪が確定。旧姓はバトラー。幼い息子を殺した容疑で1990年に有罪になったときは、わずか18歳だった。裁判所が選任した弁護団は証人を1人も呼ばなかったため、息子の傷は、彼の呼吸が止まったことに気づいたバトラー氏が蘇生を試みたときについたことを立証できなかった。ミシシッピ州最高裁は、検察の不適切な行為を理由に再審理を命じ、彼女は無罪となった。米国で無罪が証明された女性の元死刑囚は2人だけだ(PHOTOGRAPH BY MARTIN SCHOELLER)

1973年以降、米国では8700人以上が死刑宣告を受け、1500人以上の死刑が執行された。しかし、死刑宣告を受けた人のうち182人は無罪だった。ナショナル ジオグラフィック3月号では、ジャーナリストのフィリップ・モリス氏が、無罪となった元死刑囚に話をきき、えん罪と米国の死刑制度のあり方をリポートしている。

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私は、元服役者たちに会って話を聞いた。彼らは全員、身に覚えのない罪に問われ、死刑を宣告された人たちだ。彼らの背景は実に多様だが、魂を押しつぶされるような重荷を背負っていることは共通している。

出所後に元死刑囚として過ごす日々は、身の潔白を信じてもらえず獄中にいた日々に劣らず、彼らを怖気づかせ、震え上がらせ、混乱させる。冤罪(えんざい)で死刑となり、刑の執行を待つ身となった元囚人が直面する心的外傷後のストレスは、釈放され、政府に謝罪されて、補償金を支払われたとしても(支払われない場合が多いのだが)、すぐに解消するようなものではない。

その教訓は極めて重い。無実の罪で死刑宣告を受けた人の存在は、非人道的な死刑の存続に対する、この上なく説得力ある反証だ。

私が取材した元死刑囚は全員、「ウィットネス・トゥ・イノセンス(無実の証人、略称WTI)」に所属している。WTIは2005年からペンシルベニア州フィラデルフィアに本拠を置くNPO(非営利団体)で、無罪を勝ち取った元死刑囚が運営している。主要な活動目標は、死刑の非人道性について訴えて世論を動かし、米国で死刑廃止を実現することだ。

この15年間、WTIが連邦議会や各州の議会、政策顧問や学者などに働きかけてきたことも手伝って、いくつかの州では死刑が廃止されたが、今でも全米28州、連邦政府、米軍は死刑を採用している。2020年に米国では17人の死刑が執行されたが、うち10人は連邦政府による執行だった。連邦政府による死刑執行件数が州政府の執行件数の合計を上回ったのは、これが初めてだ。

元死刑囚サブリナ・バトラー氏のケースを見てみよう。彼女は1989年4月11日の夜、生後9カ月の息子ウォルター君が息をしていないことに気づいた。当時18歳のシングルマザーだったバトラー氏は慌てて心肺蘇生法を試みた。数分続けても息を吹き返さないので、パニックになりながらミシシッピ州コロンバスの病院に運び込んだが、到着した時点で死亡を告げられた。それから丸1日とたたないうちに、彼女は謀殺罪に問われることになった。

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