こんにちは、法政大学キャリアデザイン学部教授の田中研之輔です。後期のテストもおわり、春休みに入りました。オンライン講義から解放されて、学生のみんなは心穏やかに過ごせる時期ですね。3年生のみんなは就活スイッチを入れる時期でもあります。
今回は、体育会学生の就活に迫っていきます。
なぜ、体育会学生の就活なのか? それは私がずっと前から気になっていた次の問題意識についてみんなと考えてみたいからです。「スポーツ推薦などで大学に入学した体育会学生は、4年生でも現役を続けており、就活に向けた準備をする時間も機会もない。競技負担が、学業や就活にも影響しているのではないか」ということです。
短期決戦、運任せの実情
先日も、某大学の体育会所属の大学3年生からTwitterのダイレクトメール(DM)で下記の相談を受けました。
「就活って何をやったらいいですか? どんな企業があるかも知らないですし、ぶっちゃけどこの企業でもいいですかね?部活に打ち込んできたので、何も考えてきませんでした。今も練習があって、時間もとれないです。インターンっていく意味ありますか?」
1年生からの質問であれば、驚くことはありません。大学3年生の2月にこの状態は、黄色信号です。これからどうしていいかわからず、一人で悩み、相談をしてきたのです。
こうした相談は、決して珍しいことではありません。むしろ、体育会学生「あるある」です。体育会学生の就活は、準備が遅れ、事前に情報を十分に入手しないままに、就職活動を迎えている人が多いのです。
実際に体育会学生の活動状況について、約2万人が登録する体育会学生向け就職支援サイト「スポナビ」を運営するスポーツフィールド事業企画室の一宮広人さん、矢ケ崎瞬さんに実態を聞きました。「約2000人の体育会学生を対象にした調査結果では、週5日以上部活動に取り組む学生が全体の約76%いることもわかり、就職活動に多くの時間を割けず、短期化してしまう傾向があるかもしれません。また部活動の休みも月曜日が多く、その他の曜日の休みがとりにくいこともあり、部活動と就職活動の両立が難しいのが現実です」。簡潔に述べるなら、体育会学生の就活は「短期決戦で、運まかせ」になりがちなのです。
13年前に法政大学に着任してから、私は3000人以上の学生たちを社会へと送り出してきました。私が教員として学生のみんなと関わる上で大切にしていることは、2つです。1つは、専門的な学びを深め、大学を卒業してからも学び続ける「自学力」を習得してもらうこと。もう1つは、大学から社会へのキャリアトランジション(キャリアの移行期)への気付きをできるだけ実践的に経験してもらうことです。
私のゼミにも毎年数名の体育会学生を受け入れていますが、競技生活で素晴らしい経験をしながらも、「自学力」の育成と気付きへの機会が不足しがちなのが、体育会学生だという印象を持っています。体育会学生の大半が、十分な準備なしにドタバタ就活を行っています。しかし、こうした実態があるにもかかわらず、「体育会学生は、就活に有利」だという言葉もよく耳にします。
その理由は、体育会学生のOB・OGネットワークによる推薦などが、今もあるからです。実際に、私のゼミに在籍する体育会学生も、部活のOB・OGの推薦やリクルーティングによって希望の内定先に決まっていくケースもみてきました。ただ、その数はわずかです。
今回は体育会の就活について様々な課題や「うわさ」があるなかで、客観的なデータに基づいて考えていきたいと思います。