日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/4/10

この研究はまた、マンモスがいかにうまく、そして早く、寒さに適応できたかを示している。これまでの古代ゲノム研究でも、ケナガマンモスがどのようにして寒冷な環境で繁栄したのかが分析されてきた。しかし、ケナガマンモスに寒さへの耐性をもたらした遺伝子の多くは、ケナガマンモスよりはるかに古いマンモスにすでに現れていた。今回の研究で、ケナガマンモスのこうした遺伝子の85%以上が、100万年以上前にケナガマンモスの祖先にあたるシベリアのトロゴンテリーゾウに存在していたことがわかった。

化石証拠によれば、100万年前までにマンモスはすでに高緯度地域に生息していたので、彼らが寒さを乗り切れるよう適応していたのは驚くべきことではない。しかし、今回の研究で、この適応の過程は独特のペースで進んだことがわかってきた。マンモスは、寒さに適応した遺伝子を突発的にではなく、多かれ少なかれ安定したペースで進化させてきたらしいのだ。

50万年以上前の北米のマンモスは何者か

コロンビアマンモスがケナガマンモスと謎のマンモスの交配種であったことが明らかになり、北米のマンモスの化石記録を再評価する動きに拍車がかかるだろう、と古生物学者たちは述べる。

マンモスの歯の化石を系統図と照合した最近の研究からは、歯の形状は北米全域でかなり似通っていたことがわかっている。今回の新しい研究でも、同様の点が強調されている。50万年以上前とそれ以降の北米のマンモスの歯に大きな違いはない。コロンビアマンモスを生み出した遺伝的な変化は巨大であったにもかかわらず、だ。

「DNAがなければ、通常は形態的なもの、形状の違いを見ることになります。形が違わなければ、種の違いはわかりません」。米テキサス州ウェーコ・マンモス国定公園の古生物学者、リンゼイ・ヤン氏はそう言う。「遺伝的観点が加わることで、差異が見えてきます。そのデータが得られるのです」

論文の共著者であるエイドリアン・リスター氏は、英ロンドン自然史博物館の古生物学者であり、世界有数のマンモス専門家の一人だ。同氏によれば、この研究はまた、研究者たちの中にある一つの緊張を浮き彫りにしている。DNAが発見されていない場合に、マンモスの歯をどのように定義するかということだ。

遺伝子的にみて、コロンビアマンモスが40万年から50万年前まで存在しなかったのであれば、全く同じように見えるより古いマンモスの歯をどのように定義すべきなのだろうか? これまでのところ、50万年以上前の北米のマンモスの歯のDNAを解読した報告はない。

このパズルを完成させていくためにダレン氏らは、今回の画期的な発見を可能にした自分たちの技術を、他の北米のマンモスの歯でも試してみたいと言う。今後、カナダで発見された50万年前のマンモスの歯と、おそらくケナガマンモスのものと思われる20万年前の歯の配列決定を行いたい考えだ。

100万年の壁が突破された今、さらに古いDNAからの情報が得られるのも時間の問題だ。「それこそ100万ドルに値する問いですね」とダレン氏は言う。「手元のデータを分析してきた上で思うのは、良いサンプルさえあれば、200万年の壁を超えるのは比較的簡単だろうということです」

(文 MICHAEL GRESHKO、訳 桜木敬子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年2月23日付]

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