日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/4/10

DNAの塩基配列の決定は第1段階にすぎなかった。次に、ファン・デル・バーク氏らのチームが、このDNAの断片が真に古く、真にマンモス由来のものであることを確認する作業を行った。

歯は微生物だらけの永久凍土に100万年以上もの間、埋もれており、発掘から50年近くの間に数え切れないほどの科学者に取り扱われてきた。汚染を防ぐために最善の努力がされてきたはずとは言え、ここまでの旅路で付着してきた余分なDNAと、チームは格闘しなければならなかった。

何週間もかけてコンピューターによる解析を行った結果、短いもので35塩基対からなるマンモスのDNA断片を識別し、実際には30億塩基対以上だったゲノムにそれらをマッピングできた。

従来説を覆す驚きの配列

この最新の研究はすでに、マンモスがどのように進化したのかという問いに新たな光を当てている。研究者たちが驚いたのは、このDNAの配列が、かつて北米大陸を闊歩(かっぽ)していた2大マンモス種のうちの1つである、コロンビアマンモスの誕生よりも古かったことだ。これが、マンモスの進化についてこれまでにない洞察をもたらしている。

シベリア北東部に位置するウランゲリ島では、永久凍土の中からケナガマンモスの牙が出てくることがある。ウランゲリ島はマンモスの最後の生息地の一つで、紀元前2500年まで生き残っていた個体もいる。マンモスのDNAを見つけるのに適した場所だ(PHOTOGRAPH BY LOVE DALEN)

150万年前までに、ヨーロッパとアジアに生息したトロゴンテリーゾウ(ムカシマンモス)の近縁種が、現在はベーリング海峡に覆われている陸橋を渡って北米にやってきた。彼らがコロンビアマンモスの祖先にあたる。

約10万年から20万年前までには、北米には少なくとも2種類のマンモスが生息していた。北のケナガマンモスと、メキシコにまで到達した南のコロンビアマンモスだ。過去の遺伝学的研究からは、コロンビアマンモスとケナガマンモスが交雑していたこともわかっている。

古生物学者は長い間、マンモスの特徴的な上顎の臼歯を使って種を区別してきた。従来、歯の化石からは、約150万年前以降に北米に生息していたマンモスは、コロンビアマンモスとされてきた。しかし、化石研究からは連続性が示唆されてきたのに対し、今回の遺伝的研究では、そこに明確な変化があったことがわかったのだ。

今回調査が行われたゲノムのうちの2つは、後にケナガマンモスが生まれた系統に属している。しかし、発見場所近くの川の名から「クレストフカ」と呼ばれる最も古い歯のDNAは、これまで知られていなかった遺伝的系統に属しているとみられる。この系統は、約150万年前に他の2本の歯を含む系統から分岐していた。

ファン・デル・バーク氏らがこの謎のマンモスのゲノムを、すでに配列が決定されていたコロンビアマンモスのDNAと比較したところ、驚くべき結論に達した。コロンビアマンモスは、40万年から50万年前に、シベリア、北米、またはかつて両者を結んでいたベーリング陸橋のどこかで、クレストフカのマンモスとシベリアのケナガマンモスが交配して生まれた種だったのだ。

約20万年前に北米で起こった2度目の交配の後、コロンビアマンモスはさらに11~13%のゲノムをケナガマンモスから得た。コロンビアマンモスが絶滅した約1万2000年前には、ゲノムの約5分の3がケナガマンモスに、残りの5分の2が、たった一つの歯からしか情報を得られていない、謎に包まれたクレストフカマンモスに由来するものとなっていた。

次のページ
50万年以上前の北米のマンモスは何者か
ナショジオメルマガ