マンション購入「値上がり期待」は危険 投資目的もNG
榊淳司 後悔しない住まい選び(6)
マンション購入の相談を受けていると、時にあまりにも漠然とした質問をされることがあります。
「どの地域でマンションを買えばいい?」
はっきり言って、そんな質問には答えようがありません。
「買ったマンションが値下がりしてほしくない」
ということを言う人もいます。誰でもそう考えますし、あわよくば値上がりしてくれれば、中古で売ったときに売却益でもうかるかもしれません。
大都市のマンションに含み益
2013年から8年間、大都市の中心エリアのマンションはほとんど値下がりしていません。むしろ値上がりした地域も多くあります。
例えば、東京都の山手線の内側なら、この8年で1.5倍から2倍ほど値上がりしました。このため、ここ10年以内に東京の都心やその周辺でマンションを買った人のほとんどに含み益が生まれています。売却することで、それを現金化した人も大勢います。
しかし、これから先も価格の上昇が続くとは限りません。もしかしたら、平成の大バブルが崩壊した後の1990年代の後半や、リーマン・ショック後の不況に見舞われた08年以降の数年間のように、下落局面がやってくるかもしれないのです。
下落局面、ほぼすべてのエリアで値下がり
不動産市場が下落局面に入ると、ほぼずべてのマンションの資産価値が同時に下がります。だから先ほど「値下がりしてほしくない」と質問した人が買ったマンションも、資産価値が下落するでしょう。
マンションに関して意見を表明する専門家の中には、値上がりするエリアもあればそうでないところもある、といったことを唱える人もいるようです。
こういう考え方に私は同意できません。それは前述の2回の下落局面で、ほぼすべてのエリアで値下がりが起こっていたからです。
マンションを購入するというのは、そのようなリスクを背負うことでもあります。しかし、考え方によってはリスクが顕在化しないような買い方もあります。それは「長く住むつもりで買う」という手法です。
「長く住む」ことでリスクは顕在化しない
例えば、若いカップルがマンションを購入し、そこで子どもを育て上げ、定年後の引退生活も過ごすとなると、「売る」という場面は訪れません。そのマンションで一生を過ごせば、売る主体となるのは、相続した子どもになります。
あるいは健康上の理由で施設に入る際、初めて売ることを経験するかもしれません。しかし、それほど長く住んだマンションは、俗な言い方をすれば「十分に元を取った」状態ではないでしょうか。購入してから30~40年も住んだとすると、同じような住居に賃貸で住み、家賃を払い続けた場合も総コストはかなり安くなるはずです。
考え方にもよりますが、長く住むことは値上がりや値下がりを超越した価値を購入した人の人生にもたらすことができ、ある意味、住宅購入で成功したことになります。
マンション供給は過剰気味
特にここ5~6年、マンションを売却して含み益を現金化する人が多くいました。そういった人は大抵、その資金でまた別のマンションを購入しているケースがほとんどです。いわば自宅の購入を投資のようにして、資産を膨らませているのです。
前述したとおり、東京の都心とその周辺エリアではここ10年ほど、そのような発想でマンションを購入し、売却することが難なくできる市場環境にありました。
しかし、マンション価格がいつまでも上がり続けることはあり得ません。いつかは下がる場面がやってくるはずです。なぜなら、需要と供給の関係だけで見れば、現状はやや供給が過剰気味だからです。
東京の人口が減り始めた
最近、東京都の人口が減り始めたというニュースがありました。都は従来、25年以降の人口減を予測していましたが、テレワークの普及で5年ほど早まったようです。
一方、鉄筋コンクリート造りの丈夫なマンションは、取り壊されることはほとんどありません。仮に取り壊しても、前よりも住戸を増やして建て替えられるケースが多くあります。つまり、マクロの目で見れば中古マンションの在庫は増える一方なのです。いつかはこの需要と供給の関係に従った価格が形成される日が来るはずです。
それがいつなのか、というのは難しい問題です。しかし、ひとつ確実に見えていることがあります。
金融商品化している都心のマンション
13年に始まった大都市圏でのマンション価格上昇には重要なきっかけがありました。それは異次元の金融緩和です。市場に多くのマネーを流し込み、金利をゼロ前後に引き下げたのです。これによってマンションを買いたい人は住宅ローンが借りやすくなりました。
東京都心の山手線内のマンションは、今や住宅というよりも金融商品的な側面が強くなっているのです。金融緩和は今も続いていますが、そのうち終わります。
異次元の金融緩和を始めたのは日本銀行の総裁を務める黒田東彦氏です。黒田氏の任期は18年から2期目に入って、23年4月8日まで続きます。日銀の総裁が黒田氏からほかの人に変わると、それまで10年続いた金融緩和は終わる可能性が高くなります。
そうなると、半ば金融商品化している都心のマンションは元の住宅に戻ります。元の住宅に戻れば、その価格を決めるのは市場。市場価格は需要と供給の関係で決まります。
「長く住む」発想で購入を
ただ、このシナリオ通りになったとしても、実際にマンションの価格が下がり始めるのは3年以上先でしょう。
このため、今からマンションを買おうとするならば「値上がり」や「値下がり」を重視するという価値観ではなく、「長く住む」発想で物件を探すべきだと思います。
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「一生の買い物」といわれる住まいの購入。誰しも失敗はしたくないでしょう。戸建てやマンションの最新情報のほか、販売業者などの事情にも精通する榊淳司氏が、後悔しない住まいの選び方をアドバイスします。
住宅・不動産ジャーナリスト。榊マンション市場研究所を主宰。新築マンションの広告を企画・制作する会社を創業・経営した後、2009年から住宅関係のジャーナリズム活動を開始。最新の著書は「限界のタワーマンション」(集英社新書)。新聞・雑誌、ネットメディアへ執筆する傍らテレビ・ラジオへの出演も多数。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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