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兵馬俑を埋めようとしたら兵馬俑が 新作づくりで妄想

立川吉笑

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NIKKEI STYLE

緊急事態宣言下ということもあり、仕事以外の時間は基本的に自宅にこもっている。本を読んだりYouTubeを見たり、もちろん落語の稽古をしたりと、ステイホームで自宅時間ばかり過ごしていると、困るのはこの連載で書くべき出来事が何も起こらないことだ。

最近一番心が動いた出来事は「冷凍のチャーハンは、凍っている時はボリューミーに感じるけど、火を通したら随分かさが減るのだなぁ!」ということ。とてもじゃないけど、それだけで一本の原稿を仕上げることはできない。ということで今回は珍しく本業について、つまりは落語について書く。

君の僕と僕の僕のズレ

僕は古典落語もやるけど、割合としては新作落語をやることの方が多い。なので、常に何かしら「次はどんな落語を作ろうかな」と考えながら日々を過ごしている。気に留まった出来事や言葉をメモしておいて、そこから感覚に身を任せてネタに仕上げていく。

一番新しく作ったのは「乙の中の甲」というネタ。好きな作家さんのSNS(交流サイト)での言動に「まさか○○さんがそんなことを言うなんて」とがっかりすることがあった。僕の好きなその作家さんがそんなことを言うはずないとにわかに信じ難かったし、何かの間違いじゃないかと思った。そのとき、ふと面白いなと感じたのは、僕にとっては実在する作家さん本人よりも、僕のイメージの中の作家さんこそが、本当の姿なのだと思い込んでしまっていることに気付いたことだ。自分のイメージを信じているからこそ「まさかそんなことを言うなんて」と意外に感じ、がっかりできたのだ。

考えてみると、僕も後輩から「吉笑兄さんがそんなことを言うなんてがっかりです」と言われることがままある。というのも、これまでの僕の言動から多くの後輩が僕のことを「従来のルールをぶち壊して、新しい落語を切り開いていく尖(とが)った先輩」というふうに認識しているようなのだ。実際の僕は案外落語が持つ伝統性を重んじる保守的な面も色濃かったりするから、前のめりに「自分たちで時代を変えましょう!」みたいな血気盛んなことを言う後輩に対して「まぁまぁ」とたしなめたりする。そういうときに「まさか吉笑兄さんがそんなことを言うなんて」とがっかりされてしまう。彼らの頭の中の僕と、実際の僕にズレがあるのだ。

生活をしていてそういう面白いなという引っかかりを感じたら、しばらくの間ずっと考え続ける癖がある。今回の事例だと「普通に考えたら他人の頭の中の自分よりも、実際の自分の方が正しいに決まってるよな。だってそれが実際の自分なんだから」→「いや、自分がどう思っていようが相手がどう受け取るかが全てじゃないか?」→「そもそも自分がいるのは他人がいるからじゃないのか?」→「だって誰もこの世からいなくなったとしたら、その時自分は存在すると言えるのか?」→「他者が存在することで自分という存在が立ち上がってくる? 一方で同時に自分が存在することで他者という存在が立ち上がってくる?」→「いずれにせよ、誰かが自分のことを優しい人間だと認識していたら、実際の自分がどうであれその人にとっては自分は優しい人間ということになる」→「ということは、人間の数と同じだけの自分が存在していることになる?」などと、SNSで見かけた1つの発言からこんな具合で考えが広がっていく。そして気づけばそれが、八五郎の頭の中の熊五郎と、実際の熊五郎の違いを描いた滑稽噺(ばなし)として結実する。

まさにいま作っているネタは、前作「乙の中の甲」が哲学的というか思想が強いネタだったから、その反動でポップでキャッチーなネタにできればと思っている。なんとなく下町の商店街が舞台で人間味のあるキャラクターが動き回るドタバタコメディーみたいな感じのネタを久しぶりに作りたいなぁと想像していたら、ネットの記事で「兵馬俑坑(へいばようこう)」というモチーフと出合った。兵馬俑というのは等身大でリアルに彫られた古代中国の兵士像だ。思えば社会科の資料集あたりでその写真は目にしたことがある。そんな像が始皇帝陵のそばからなんと8千体近く出土したらしい。リアルで、しかもそれぞれ違う顔をした等身大の像が地中に8千体も埋められていると想像したらゾクゾクする。

実際にはどういう意図でそんな一大プロジェクトが執り行われたのか分からないけど、いくつかある理由の一つには自分たちの栄華の証しを未来に残そうとしたのではないか。「これだけの屈強な軍隊を備えていたんだぜ」みたいな。

廃れた商店街が未来のために

そこでなんとなく想像が膨らんだ。兵馬俑を作る際にはモデルがいたはずで、いざ自分の像を作ってもらうという際にはモデルたちは少しでもかっこよく彫ってもらおうと、背伸びをしたり、目を二重にしてみたり、見栄(みえ)を張ったんじゃないかなぁと。人によっては職人に裏でお金を渡して「お願いだから、少しだけ鼻を高くしてくれよ」「できませんよ!」「頼むよ、この通り!」みたいなやりとりがあったかもしれない。今でいうと免許の写真のためにわざわざ髪の毛をセットしてから更新センターに行くみたいな感じに近いのかも。

近隣に大型ショッピングモールができてすっかり廃れてしまった昔ながらの商店街の連中が「今生での勝負は諦めたけど千年後にはショッピングモールに勝つんだ」と息巻いて、兵馬俑みたいに自分たちそっくりな像を作って埋めようとする、みたいな物語はどうか。だったら千年後に実際に商店街版兵馬俑が発掘された後の様子も描こうか? じゃあその前に、商店街版兵馬俑を埋めようと穴を掘っていたら、縄文版兵馬俑が出土するという物語は?

などと、一番物語として面白くなる設定はどれだろうかと自宅で妄想している。レンジがなったからチャーハンを食べよう。どうせ思ったよりもかさが減っているに違いない。

立川吉笑
 本名は人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。軽妙かつ時にはシュールな創作落語を多数手掛ける。エッセー連載やテレビ・ラジオ出演などで多彩な才能を発揮。19年4月から月1回定例の「ひとり会」も始めた。著書に「現在落語論」(毎日新聞出版)。
立川談笑、らくご「虎の穴」 記事一覧はこちら

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