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復活のカギは世界第3位のインドネシア市場

それではなぜ13年後に250cc・4気筒は復活できたのか。その背景には海外の二輪市場の伸長がある。特に同社が重視しているのが、インドと中国に次ぐ世界第3位の二輪市場であるインドネシアだ。19年の同国の二輪車市場は648万7460台と、日本(36万2304台)の10倍以上もある。しかもインドネシアは、インドや中国に比べて日本メーカーのシェアが高い国だ。カワサキも95年にジャカルタに生産工場を建設。現地での二輪車の輸入・販売も手掛けている。

(注)インドネシアの二輪車販売台数はインドネシア二輪車製造業者協会(AISI)の統計から。日本の二輪車国内販売台数は日本自動車工業会(JAMA)の資料から。

インドネシアの「Kawasaki Motor Indonesia」の工場(画像提供 川崎重工業)

インドネシアの二輪車は大半が排気量100~150ccのスクーターだが、ここ数年で国民の購買力が向上したことにより、レジャー用のオートバイも売れるようになってきた。しかも排気量250cc以下のオートバイは、インドネシアで一番取りやすい二輪免許「SIM C」で乗車でき、ぜいたく品に課せられる奢侈(しゃし)品販売税がかからないので、ある程度の富裕層であれば購入可能な価格帯にできる。日本ではスーパースポーツバイクの入門者向けとして、インドネシアでは高級バイクとして開発することで、250cc・4気筒の復活の芽が出てきたというわけだ。

ただし、Ninja ZX-25Rは単に90年代の250cc・4気筒を復活させた製品ではない。開発に当たって同社は、「現在のお客様にも250cc・4気筒の胸のすくようなフィーリングを楽しんでもらいたい。そのためにどんなシチュエーションでもワクワクできるバイクを造る」(川崎重工業)ことを目指し、大型バイクに劣らない性能・機能を備える方針を立てた。

一般的に、小排気量の4気筒エンジンは、シリンダー1つ当たりのトルク(回転モーメント)が小さくなるので、低中速域での加速力は弱くなりがちだ。例えば交差点などでの減速後にスムーズに再加速をしたいといったとき、従来の250cc・4気筒は力不足を感じることもあった。これを新開発したNinja ZX-25Rの4気筒エンジンでは、燃焼室や吸気ポートの形状などを工夫することで、低中速域でもそれほどトルクが落ちないように改良。また大型バイクと同様に、心地良いエンジン音の調整にも時間をかけた。

さらに走行性能を高めるために、これまで600cc以上の大型バイクにしか搭載していなかった電子制御システムを250ccクラスで初めて搭載した。 具体的には、滑りやすい路面でエンジン回転数などを自動制御してタイヤの空転を防ぐ「トラクションコントロール」と、クラッチレバーを握らなくてもギアチェンジペダルを操作するだけでシフトチェンジができる「クイックシフター」の2つの機能だ。この「走行性能を追求する」という目的に沿って付けられた機能には、意外な2つのメリットがあった。

「Ninja ZX-25R SE」では標準装備、「Ninja ZX-25R」ではオプションとなる「カワサキクイックシフター」(KQS、写真左)。トラクションコントロール(KTRC)には路面の状況に応じて3つのモードがあり、液晶画面で確認できる

1つは、先進機能によって「コスパが高い」というイメージができたこと。これまでトラクションコントロールとクイックシフターを備えたカワサキのバイクで最も低価格だったのは税込み135万3000円の「Ninja ZX-6R」で、同クラスのバイクより40万円以上も高価だった。このため、Ninja ZX-25Rが19年10月に「第46回東京モーターショー2019」で先行展示されたときには、「100万円以上するのではないか」と予測する人がかなりいた。

しかし同社は、一部の部品を共通化することで、ある程度のコストダウンに成功。20年7月の発表時の価格は下位モデルで税込み82万5000円、上位モデルの「Ninja ZX-25R SE」でも税込み91万3000円に抑えられた。その結果、250cc・2気筒の「Ninja 250」(税込み64万3500円から)よりは高価なのだが、先進の電子制御システムが追加されていることで納得感を高めることができた。

また、そもそも加速・減速を効率よく行うために付けられたクイックシフターが、クラッチレバーを握ってシフト変更をするのが苦手なバイク初心者層にもマッチ。新しいエンジンで低中速域のトルクを改善したことと相まって、「スーパースポーツ型だが、街乗りでも運転しやすい」との評価を得られた。

注)Ninja ZX-6Rのクイックシフターはシフトダウンには使えないが、Ninja ZX-25Rのそれはシフトアップ・ダウンの両方ができる

正式発売までの10カ月間を埋めたYouTube

Ninja ZX-25Rは前述のように、発売の10カ月以上前となる東京モーターショー2019でお披露目された。通常、新製品の発表は早くても発売6カ月前で、これほど早く公表するのは異例だ。「かなり力を入れたモデルだったので、ベストな舞台で発表したかった。重要な市場である日本を発信元としたかったことと、海外へのアピールや注目度を総合的に考慮して東京モーターショーを選んだ」(川崎重工業 モーターサイクル&エンジンカンパニー 営業本部マーケティング部の神崎有哉氏)。250cc・4気筒を切望していた人がかなりいたこともあり、二輪車会場ではホンダ「CT125・ハンターカブ」と並んでトップクラスの注目を浴びた。

東京モーターショー2019での展示(写真提供 川崎重工業)

そこから正式発表の20年7月、そして発売の9月までにファンの期待を維持したのがYouTubeの動画コンテンツだった。単なるデザインや機能の紹介だけでなく、スーパーバイク世界選手権で6連覇中のカワサキ・レーシング・チームのドライバーがNinja ZX-25Rに試乗する映像など、工夫を凝らした動画6本を順次公開。21年2月時点で、すべての動画が2万回以上再生されており、35万回視聴を達成した動画もある。

カワサキが公開したNinja ZX-25RのYouTube動画。カワサキ・レーシング・チームのジョナサン・レイ選手とアレックス・ロウズ選手が出演した。海外からのコメントも多数寄せられている(画像提供 川崎重工業)

開発当初、カワサキでは国内市場におけるNinja ZX-25Rのメインターゲットを「1980~90年代の『レーサーレプリカブーム』を知る50代前後。および既に好評だったNinja 250からのステップアップ組」(川崎重工業)と考えていた。しかし実際には、250cc・4気筒を初めて体験する20~30代のライダーがかなりの割合に上るという。YouTube動画によるエンジン音や走行の疑似体験が後押しとなり、想定以上に若い層を獲得できた可能性は高い。

これらの実績により、Ninja ZX-25Rは20年12月に「第3回 日本バイクオブザイヤー2020」の軽二輪部門で「最優秀金賞」を受賞。発売からわずか3カ月で、20年を代表するバイクとなった。

(日経トレンディ 大橋源一郎)

[日経クロストレンド 2021年2月17日の記事を再構成]

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