また、国内にあってもコミュニケーションは感覚的になる一方です。表現能力も読み取り能力と同じくらい上げていかなければ、伝わるものも伝わらなくなっています。我が首相がやたら会見や答弁で批判を受け始めたことは、その表れと思いませんか。

少なくとも「目」は使いましょう。大事なことを言うときには、原稿やプロンプターから目を離して聞き手をグッと見つめる、それだけでもだいぶ違うのです。

テレカンでの身ぶり手ぶりは「ノイズ」に

コミュニケーションは感覚的になる一方、と言いましたが、さらにコロナ禍が表情などによる表現力の必要性を強めています。Zoomなどのテレカン(テレビ会議)が爆発的に普及し、そしてマスク着用が常態化したからです。実際の対面とは違う制限のあるコミュニケーションでは、非言語表現をより一層意識していく必要があります。

では、「身ぶり手ぶり」をたくさん加えていったほうが、表現としてわかりやすいのでしょうか? うーん、ここは微妙なところです。

「Web映え」をテーマにしたオンラインセミナーをやっていますが、そこではやはり自身の目や表情に意識を向けることを言っています。しかし、身ぶり手ぶりはそれほど重要視していません。画面の面積が制限されているテレカンでは、やたらな身ぶり手ぶりはうるさく感じられ、聞き手にとってのノイズとなる場合が多いからです。

テレビ会議では身ぶり手ぶりはじゃまになることも(写真はイメージ)=PIXTA

テレカンだけでなく、実対面でのプレゼンに関しても、やたらうるさい身ぶり手ぶりは逆効果です。私は経営者などへのプレゼン指導もしますが、動作がうるさい場合は、しばらく手を体の脇につけたまま話してもらったり、場所を動かないままで話してもらったりする練習をするほどです。

もちろん、効果的なジェスチャーやプレゼンの内容をわかりやすくするステージ上での移動の仕方などは確かにあります。ただし、「目線の使い方」「表情の変化」「声の強弱と抑揚」と同じく、言っている内容とリンクしていることが大切です。かといって、ダンスの振り付けのように、「ここでこういう動きをする」などのシナリオ化はお勧めしません。ほとんどの方にとってわざとらしくなるからです。

一つ何か取り入れるとしたら、手のひらをななめ上に向けるしぐさでしょうか。片手でやると「皆さん」「あなた」と語りかけるときにぴったりきます。両手ですると、訴えかける気持ちが強く伝わります。これはテレカンでも、あまりうるさく見えません。試してみてください。

ニューノーマルのソーシャルセンス

テレカンの普及とマスク着用の常態化は、人前で話す場面においても新たな気遣いの必要性を生んでいるようです。社会で生きていくセンス、ソーシャルセンスがあらためて問われています。

例えば、政治家の取材や会見の場面では、取材や会見そのものだけでなく、前後の振る舞いが気になる、という声も聞くようになりました。その一つにあったのは「あの政治家は、いつもインタビューに答えるときに、無造作にマスクを外してポケットに突っ込む。その動作がいかにも粗雑に見えるし、気持ち悪く感じる」ということです。

「見られる人は大変だなあ」と思いつつも、これは、ふつうのビジネスシーンでも気をつけたほうがよさそうです。人が外したマスクは、その人以外から見ると気持ちのよくないもの。本人は気づきにくいですが、その取り扱いは意外と見られています。悪気がないのに「気持ち悪い」なんて思われたらイヤですよね。特にプレゼンやスピーチなどでいつもより注目されているときは注意しましょう。

色々な方を見ていると、礼儀正しい方は、マスクを外すときに他人から見えにくいように少し脇を向き、できるだけ目立つことなく外しています。持参したマスク入れ(最近はどこでも売っていますね)に手早く入れ、男性だと人目につかないように上着の内ポケットに入れるのがスマートに感じます。いずれにしても、外したものをどこかにしまう、というときに他人が見て不潔に感じないよう気をつけたいですね。

会見にカラフルなマスクで登場する大臣もいらっしゃいます。さまざまなメッセージを込めているようで、「おもしろい」「わかりやすい」と支持する人も多いようです。装いにメッセージを込めること自体は、とても素晴らしいことです。ただ、カラフルな遊びも入ったようなマスクの選ぶのは、衛生面に多くの人が気をもんでいる現状に即さないメッセージにもなりかねないのでは、と思うことがあります。

外国に住んでいる友人が言っていましたが、その国の指導者はコロナで危機的なステージにあったときには、作業服のようなカジュアルウエアを身につけ、ステージが改善されたメッセージを出すときにはスーツにネクタイで会見に臨んだそうです。「状況が明るくなり、ノーマルに近づいたことがわかる、とても明確なメッセージだった」とその友人は誇らしげに言っていて、聞いていた私も感心しました。

自分が身につけているものが、どのようなメッセージを放つのか、政治家でなくても、リーダー的役割を持つ人は一考していただきたいと思います。

丸山ゆ利絵
 ホテル西洋銀座やアークヒルズクラブなどを経て2010年、経営者などに「ふさわしい存在感」の演出方法を助言するコンサルティング会社、アテインメンツ(大阪市)を設立、代表に就任。15年、ビジネスマンに正しいスーツの着方を指南する「スーツ塾」を開講。 著書に「『一流の存在感』がある人の振る舞いのルール」(日本実業出版社)など。

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