なぜ、このような服装になるかというと、謝罪に必要な姿勢「誠実さ」=真摯に謝罪する気持ち、「恭順」=相手に対して慎んだ態度、「沈痛」=相手を怒らせたことを悲しみ胸を痛めている様子、を表すのには、慎み深い印象の装いがふさわしいからです。とにかくきちんとしたビジネスフォーマルで、華やかさやけばけばしさがない色使いが必要です。
また、色彩心理学では濃いブルー系は理性や知性、責任感などを感じさせ、同時に落ち着きを与える色とされます。感情を鎮めてもらいたいと考えるなら、選択すべき色です。逆に赤は興奮作用があることで知られています。また怒りのイメージもある色です。謝罪にふさわしくないのがわかります。
加えて、ストライプ柄のネクタイはどちらかというとカジュアルな柄です。普段の仕事の場では何の問題もありませんが、ビジネスフォーマルと呼ばれるあらたまった雰囲気が必要な堅い場面ではつけません。あらたまって自分の過ちを弁明し理解を得ようという場には向かない柄です。
これらのことは、印象管理の手法であり、「謝罪ではこうしなければならない」という決まりのような種類の話ではありません。また、色彩心理といっても、一般の方が知らないのも無理ありません。しかし、重要な役職をつとめる森氏の謝罪の時のネクタイの選び方としては、周りの方も含めて脇が甘いと感じたのです。もしあなたがミスを認め謝る、という場面に行き当たったときは、思い出してほしい事柄です。
服装は、非言語表現として重要な位置を占めます。どんな場所でも自分の身につけるものによって自分の立場、相手への尊敬度を示すことになりますので、選び方を間違えると印象が落ち、相手の感情を逆なでする結果にもなりかねません。
ついでに言えば、最近はマスクも服装にカウントされます。謝罪などの堅い場面であれば、マスクでのおしゃれなど考えず、無難な白マスクにすることをおすすめします。
頭を下げたらネクタイぶらり、は避ける
上でやってはいけないこととして「間違ったことをしたことを認めない」「示すべき姿勢をちゃんと示せない」「相手の気持ちを鎮めることを忘れる」という3点を上げましたが、知らず知らずのうちに、これをやってしまい、謝罪に失敗することがあります。言葉をつくして謝罪しようとしても、表情や立ち居振る舞いやが言葉を裏切ることがよくあるからです。
前回(「伝わらない」首相は反面教師 新常態プレゼンのコツ)、目線、表情、声、動作などは、コミュニケーションにおける「非言語要素」であり「言語」以上にコミュニケーションに影響する、と言いました。それらが言っている内容とリンクしていることが大切とも言いました。これが謝罪となると一層大切になります。非言語要素は無意識に相手の感情を左右するからです。
不満げで怒りを押し殺したような表情や相手を軽く見るような表情でいくら謝っても、謝られるほうには「謝りたくないのだな」「悪いと思ってないのだな」と感じさせるだけで、謝罪の意味がなくなります。
例えば下からにらむような目。への字に結んだ口。相手を軽く見るような表情。または、感情が感じられない無表情。薄ら笑いした口元。これらは相手に「悪いと思っていない」と感じさせる可能性が高いものです。また、アゴを浮かせて上から相手を見たり、鼻をフンとところどころで軽く鳴らすようなことがあれば、傲慢さや不遜さを感じさせて、これだけでもマイナスです。
これもくだんの会見では、けっこう見られていた様子です。印象としてはマイナスが多すぎたと言えるでしょう。
本当に悪いことをしてしまった、と思っている人の表情には悲しみや後悔が表れますし、「許してもらえるだろうか」という願いや緊張感が表れます。ですから、緊張感なくとろんとした目つきや締まりのない口元も、やっている本人は悪気がなくても、相手には無神経に映ってしまい、感情を損なう原因となることは多いのです。
悪気はないけど、印象が悪くなるのは頭の下げ方にもよく見られます。ぴょこん、と首を曲げて頭を軽く下げるだけでは、やはり気持ちが伝わりません。相手に頭を下げるときは、首だけ曲げるのではなく首はまっすぐにして腰から曲げます。深い謝罪の意は「最敬礼」と呼ばれるお辞儀で表します。角度はだいたい45度です。
そのときは、立ち上がる際に上着のボタンを留める所作を忘れないでください。通常、立っているときは上着のボタンは留めておくものです。この所作が身についておらず、うっかり忘れてしまうと、ネクタイをブラーンと垂らしただらしない謝り方になってしまいます。悪意はないのにさらに損する典型的なケースですが、意外とやっちゃっている人は多いです。
もうひとつ、きちんとした正式な謝罪を感じさせる所作は「先語後礼」の作法を知っておいてください。正式なご挨拶(あいさつ)のときの作法です。「すみません」などと言いながら頭を下げるのは「同時礼」というカジュアルな挨拶です。謝罪などを正式にするときは、相手をまっすぐ見て謝罪の言葉を言った後に、深々とお辞儀します。簡単なことですが、印象を変えますので覚えておいて下さい。
テレカンでの謝罪方法、表情と声が一層重要
ここまでお話ししてきた「謝罪のお作法」ですが、最近は実対面でなく、やむを得ずリモート、テレカンで、ということも増えてきたそうです。本来でしたら、真剣に謝罪するときには何を置いても相手の元に駆けつける、という人が多かったですが、そのような行為がかえって相手の安全や健康を脅かしたり、同行する人間にさせるべきでない無理をさせたり、という恐れがあります。リモートで、という謝罪方法も使わざるを得ません。
しかし、謝罪の本質は変わりません。そのため謝罪点を認識すること、相手が感じていることへの理解と共感を示すこと、服装の注意点、表情などはすべて同じように気をつけるべきことです。お辞儀の所作は立ち上がってはできないと思いますが、先語後礼の作法も同様です。
ただ、「表情」「声」はより一層重要でしょう。画面から見えるあなたの表情と声が言っている言葉とリンクしていること。そこに気をつけて下さい。
また、ひとしきり謝罪をする前後に原因説明や経緯説明などをされる場合は、話を進めるうえで、相手の許可を取りながらしていったほうがいいでしょう。例えば、「今回の原因について、まずご説明したいと思いますがよろしいでしょうか」「次に弊社の対応についていったんご説明してよろしいでしょうか」というふうに、です。
これは実対面の謝罪でも推奨する進め方です。ただ、テレカンではお互いの音声が被ると混乱した印象になりやすいので、それを避けるために特に注意深くします。混乱が高じて、ぶちっと通信を切られてしまうと大変ですから。
それと、何よりも「本来であれば相手の元に謝罪にかけつけるのが筋だと思っている」という気持ちを添えるようにしたほうがいいでしょう。コロナ禍の前でもメールや電話による謝罪の場面はいくらでもありましたが、何も考えずにメールや電話で謝罪が済む、と思っているような態度は、悪気はなくてもやはり不遜な感じに見えやすいものです。「本来なら伺うべきところ、(メールや電話で)申し訳ない」という態度の人のほうが、相手の心証を和らげます。


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