映画『レット・イット・ビー』の誤解、新作への期待特別映像から読み解く『ザ・ビートルズ:Get Back』(後編)

日経エンタテインメント!

8月27日に公開されるビートルズの新作映画『ザ・ビートルズ:Get Back』。旧作映画『レット・イット・ビー』と同じ素材を使っているが、先行特別映像をみると雰囲気はまるで違う。

後編では最後の第5ステージともいえる、アルバムと映画『レット・イット・ビー』公開までを検証。映画『レット・イット・ビー』に多くの人が抱く誤解はなぜ生まれたのか、そしてそこから見えてくる新作『ザ・ビートルズ:Get Back』に対する期待を、ビートルズ研究家の広田寛治氏が解説する。[※特に注記がない場合、本文中の曲名で『』はアルバム名、「」は曲名を示している。例えば『レット・イット・ビー』はアルバム、「レット・イット・ビー」は曲名を示す]

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42分間の「ルーフトップ・コンサート」を含む60時間の未発表映像、150時間の未発表音源を再編集した映画『ザ・ビートルズ:GetBack』。監督は『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのピーター・ジャクソン。2021年8月27日世界同時劇場公開。(c)2021 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

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ライブ・バンドというビートルズの原点にゲット・バックしようと始まった「ゲット・バック・セッション」。クライマックスとなる2日間のライブの撮影が完了し、アルバム収録予定曲のレコーディングもほぼ終えたことで、いったん中断する。だが制作はこの先も断続的に続き、1970年5月にアルバムと映画『レット・イット・ビー』として完結することになる。そこまでの複雑な経過を見ていこう。

アルバムのプロデュースを任されたレコーディング・エンジニアのグリン・ジョンズは、レコーディング終了後もメンバーの要請に従って『ゲット・バック』というタイトルでアルバム作りを継続する。69年4月にはシングル「ゲット・バック/ドント・レット・ミー・ダウン」が発売。クレジットはされていないが、プロデュースはグリン・ジョンズとジョージ・マーティンだ。プロモーション・クリップも制作され、アップル(ビートルズが設立した会社)屋上での演奏シーンなどが使われた。

同じ頃、アルバム『ゲット・バック』もバンドの原点に戻るライブ録音という当初のコンセプトにそって仕上げられ、ジャケットもデビュー・アルバムと同じ写真家で同じ構図で撮影されている。ところがビートルズの新しいマネジャー、アラン・クラインをめぐるメンバー間の対立[※]もあって、5月下旬に発売は棚上げされてしまう。[※69年2月にジョンの推薦でアラン・クラインがアップルの監査役に就任、これに反対するポールは妻リンダの父と兄をアップルの相談役に任命、やがてビートルズの会社アップルの経営をめぐる対立となる]

そんななか、7月20日に当初から監督を担当していたマイケル・リンゼイ=ホッグによって210分に編集された「映画」のラフカット映像が関係者の間で試写される。この頃にはテレビ番組ではなく映画にすることが明確になっていたのだろうか。ここでジョンとヨーコのシーンなどをできるだけ削除する方向で編集が進められることになったといわれる。

アルバム用の追加レコーディングはその後も断続的に行われていたが、その過程でジョージ・マーティンをプロデューサーに迎えて新しいアルバムを作る話が持ち上がる。

そして7月1日から8月25日まで集中的にレコーディングが行われ、9月26日に一足先に発売されたのがアルバム『アビイ・ロード』だった。『アビイ・ロード』が「ビートルズの実質的なラストアルバム」といわれるようになるのは、こうした経緯があるからだ。

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