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映画『レット・イット・ビー』の誤解、新作への期待

特別映像から読み解く『ザ・ビートルズ:Get Back』(後編)

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NIKKEI STYLE

8月27日に公開されるビートルズの新作映画『ザ・ビートルズ:Get Back』。旧作映画『レット・イット・ビー』と同じ素材を使っているが、先行特別映像をみると雰囲気はまるで違う。

後編では最後の第5ステージともいえる、アルバムと映画『レット・イット・ビー』公開までを検証。映画『レット・イット・ビー』に多くの人が抱く誤解はなぜ生まれたのか、そしてそこから見えてくる新作『ザ・ビートルズ:Get Back』に対する期待を、ビートルズ研究家の広田寛治氏が解説する。[※特に注記がない場合、本文中の曲名で『』はアルバム名、「」は曲名を示している。例えば『レット・イット・ビー』はアルバム、「レット・イット・ビー」は曲名を示す]

<<[中編]ビートルズの新作映画 旧作との違い、特別映像で検証

◇  ◇  ◇

ライブ・バンドというビートルズの原点にゲット・バックしようと始まった「ゲット・バック・セッション」。クライマックスとなる2日間のライブの撮影が完了し、アルバム収録予定曲のレコーディングもほぼ終えたことで、いったん中断する。だが制作はこの先も断続的に続き、1970年5月にアルバムと映画『レット・イット・ビー』として完結することになる。そこまでの複雑な経過を見ていこう。

アルバムのプロデュースを任されたレコーディング・エンジニアのグリン・ジョンズは、レコーディング終了後もメンバーの要請に従って『ゲット・バック』というタイトルでアルバム作りを継続する。69年4月にはシングル「ゲット・バック/ドント・レット・ミー・ダウン」が発売。クレジットはされていないが、プロデュースはグリン・ジョンズとジョージ・マーティンだ。プロモーション・クリップも制作され、アップル(ビートルズが設立した会社)屋上での演奏シーンなどが使われた。

同じ頃、アルバム『ゲット・バック』もバンドの原点に戻るライブ録音という当初のコンセプトにそって仕上げられ、ジャケットもデビュー・アルバムと同じ写真家で同じ構図で撮影されている。ところがビートルズの新しいマネジャー、アラン・クラインをめぐるメンバー間の対立[※]もあって、5月下旬に発売は棚上げされてしまう。[※69年2月にジョンの推薦でアラン・クラインがアップルの監査役に就任、これに反対するポールは妻リンダの父と兄をアップルの相談役に任命、やがてビートルズの会社アップルの経営をめぐる対立となる]

そんななか、7月20日に当初から監督を担当していたマイケル・リンゼイ=ホッグによって210分に編集された「映画」のラフカット映像が関係者の間で試写される。この頃にはテレビ番組ではなく映画にすることが明確になっていたのだろうか。ここでジョンとヨーコのシーンなどをできるだけ削除する方向で編集が進められることになったといわれる。

アルバム用の追加レコーディングはその後も断続的に行われていたが、その過程でジョージ・マーティンをプロデューサーに迎えて新しいアルバムを作る話が持ち上がる。

そして7月1日から8月25日まで集中的にレコーディングが行われ、9月26日に一足先に発売されたのがアルバム『アビイ・ロード』だった。『アビイ・ロード』が「ビートルズの実質的なラストアルバム」といわれるようになるのは、こうした経緯があるからだ。

解散を描いたわけではないのに

10月3日には88分に編集された映画の試写会が行われる。ここでアラン・クラインがメンバー以外の人物が映っているシーンをカットするよう要請したといわれる。グリン・ジョンズは回想録『サウンド・マン』のなかで「ビートルズと他の人々のやりとりがカットされてしまい、映画が台無しになってしまった」と語っている。

12月に入る頃には、この映画はユナイテッド・アーティスツから配給されることになり、ジョンズは12月中旬に「アクロス・ザ・ユニバース」などを加えてアルバムの再編集を開始。年が明けた1970年1月に追加レコーディングを行ってひとまず仕上げる。だがこれもメンバー間の対立などでお蔵入りしてしまう。

その後、ジョンがフィル・スペクター(「ウォール・オブ・サウンド」と呼ばれる重厚な音作りで60年代から70年代の音楽シーンをリードしたプロデューサー)にアルバムのプロデュースを依頼。ここでグリン・ジョンズはお払い箱になる。おそらくこの頃に映画とアルバムのタイトルが『レット・イット・ビー』に変更されたのだろう。

映画の公開が迫るなか、3月6日にはジョージ・マーティンがプロデュースしたシングル「レット・イット・ビー」が発売。この時ものちの映画とは異なるシーンを使ったプロモーション・クリップが制作されている。

フィル・スペクターはグリン・ジョンズが1月に再編集したアルバム『ゲット・バック』をもとに、4月2日にアルバム『レット・イット・ビー』を完成。「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」「アクロス・ザ・ユニバース」「アイ・ミー・マイン」にはオーケストラや女性コーラスが加えられた。最終段階で「オーバーダビングなしのライブ演奏でアルバムを作る」というプロジェクトのコンセプトが破壊されてしまったのだ。クラインのやり方に異議を唱えていたポールは詳細を知らされておらず、怒りを爆発させる。

ポールはさらに、『レット・イット・ビー』の発売を優先させようとするクラインと衝突。4月10日に初のソロアルバム『ポール・マッカートニー』のプレス資料でビートルズ解散を公表する。

皮肉なことに、そのニュースが世界中を駆け巡るなか、5月8日に英国でアルバム『レット・イット・ビー』が発売され、5月20日に同名映画が公開。解散を描いたドキュメンタリーとして鑑賞されてしまい、大ヒットするのだ。

こうしてビートルズ解散という事実が世界中で受け入れられていくなか、12月31日にポールはロンドン高等裁判所に「ビートルズ解散とアップルでの共同経営の解消」訴訟を起こし、翌71年3月にポールが勝訴。ジョン、ジョージ、リンゴは上告を断念し、ビートルズ解散が法的に確定する。解散騒動の最中、70年3月にリンゴは『センチメンタル・ジャーニー』を、4月にポールは『ポール・マッカートニー』を、11月にジョージは『オール・シングス・マスト・パス』を、そして12月にジョンは『ジョンの魂』を発売。メンバー4人はそれぞれの道を歩みはじめることになる。

制作過程から見れば明らかなように、映画『レット・イット・ビー』はメンバー間の不和が記録されてはいたものの、ビートルズ解散のドキュメンタリーとして制作されたものではなかった。だがプロジェクト全体に責任を持つプロデューサーが不在だったことで、アルバム発売が先送りされ続け、いつしかポール対クライン(ジョン、ジョージ、リンゴ)の抗争が勃発し、ビートルズ解散報道のなかで映画が公開されたことで、世間では「ビートルズ解散を描いた映画」としての評価が定着してしまったのだ。

ポール・マッカートニーのリベンジ

こうして69年1月に始まったゲット・バック・プロジェクトは、70年5月に映画『レット・イット・ビー』公開とそのサントラ発売で完結したはずだった。だがこのプロジェクトの結末はジョンが推したアラン・クラインの思惑どおりのものであり、ポールにとっては到底受け入れられないものだった。とりわけフィル・スペクターが過剰な装飾でアレンジした「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」に関しては、ポールはことあるごとに怒りをあらわにしていた。

その一方で、トラブルの元凶だったアラン・クラインはわずか数年でビートルズの前から姿を消し、メンバー間の不和も年月の経過とともに解消されていった。そして、ビートルズの人気は解散後も衰えることなく、彼らが残した音楽遺産がさまざまな形で発表されるようになった。ゲット・バック・セッションから27年が経過した1996年、ビートルズの未発表テイクなどを収録したアルバム『アンソロジー3』が発売。そこにはゲット・バック・セッションからの音源が13トラック収録されていた。幻となっていたグリン・ジョンズの仕事が27年ぶりに日の目を見たのだ。

ポールはそれだけでは納得できなかった。2003年にはゲット・バック・セッションに込めた69年当時の思いをビートルズ史によみがえらそうと、フィル・スペクターが加えた過度な装飾や演出を取り払った『レット・イット・ビー…ネイキッド』を発表する。それにはボーナス・ディスクとして、ゲット・バック・セッションで録音された22分間の演奏と会話の断片を収録した「フライ・オン・ザ・ウォール」も収録されていた。

そしていよいよ2021年8月27日に、ゲット・バック・セッションを新しいコンセプトで編集した新作映画『ザ・ビートルズ:Get Back』が世界同時公開される。

『ザ・ビートルズ:Get Back』への期待

最後に、現在も編集作業が続けられている新作映画への期待をまとめておこう。

本稿の第1回でも触れたように、監督に指名されたピーター・ジャクソンの発言から推察すれば、新作映画ではアルバムの制作過程に焦点が当てられ、未公開映像や音源をたっぷり交えながら、アップル屋上とアップル・スタジオでのライブに至る過程を、現代の修復技術を駆使した映像とサウンドで表現してくれるはずだ。先行特別映像を見る限り、おそらく旧作で取り上げられたメンバー間の衝突のようなネガティブなシーンはほとんど使われない可能性が強いだろう。このセッションのひとつの側面である笑顔とユーモアに満ちたシーンがたっぷりみられるのはうれしいが、願わくばゲット・バック・セッションで演奏されたことが明らかになっている、新曲以外のセッション映像もぜひ取り上げてほしいものだ。

(1)デビュー前にメンバーが親しんでいたビートルズとしては未発表のロックンロール ・ナンバーの演奏シーン
(2)録音されないままになっていたレノン=マッカートニーの初期作品の演奏シーン
(3)「ラブ・ミー・ドゥ」から「オール・トゥゲザー・ナウ」までの既発のビートルズ・ナンバーの演奏シーン
(4)最終的に『アビイ・ロード』に収録された曲の初期テイクの演奏シーン
(5)最終的にそれぞれのソロ・アルバムに収録された曲の初期テイクの演奏シーン

上記の曲のほんの一部は『レット・イット・ビー…ネイキッド』のボーナス・ディスク「フライ・オン・ザ・ウォール」でも公開されている。だが、監督が言うようにこの映画が「タイムマシンに乗ってスタジオに潜り込ませてくれる」ものであるのなら、リスニングルームでひとりこっそりとサウンドに「聞き耳を立てる」のではなく、スタジオに見立てた映画館の椅子に座って、素顔の4人が珍しい曲を楽しそうに演奏しているシーンを、大きなスクリーンで固唾を飲んで「のぞき見」してみたいのだ。とりわけ(1)(2)(5)はビートルズのルーツやその後のソロ活動を理解する上での貴重な音源になるだろう。

新作映画の関連リリースとして、8月31日には公式書籍『ザ・ビートルズ:Get Back』日本版(ハードカバー240ページB4変型判)がシンコーミュージック・エンタテイメントから発売されることが発表された。映画の素材となった録音テープから書き起こしたメンバーらの会話、イーサン・ラッセルやリンダ・マッカートニーが撮影した数百枚にのぼる未公開写真も収録されるという。ほかにも旧作映画『レット・イット・ビー』のリストア版発売が決定。正式発表はされていないが、新作映画のサントラ盤や未発表テイクなどを集めた『レット・イット・ビー』50周年記念盤の発売なども噂されている。映画の完成後に一気に発表されることになりそうだが、これらも楽しみに待つことにしたい。

ひろた・かんじ 1952年愛媛県松山市生まれ長崎育ち。山梨県立大学講師などを経て、作家・現代史研究家。日本文芸家協会会員。『大人のロック!』(日経BP/ビートルズ関連)、文芸別冊(河出書房新社/ロック関連)、ムック版『MUSIC LIFE』(シンコーミュージック/ビートルズ関連)などの執筆・編集・監修などを担当。主な著書に『ロック・クロニクル/現代史のなかのロックンロール(増補改訂版)』(河出書房新社)などがある。

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