睡眠リズムの乱れで免疫低下、全身の健康にも悪影響

睡眠不足はもちろん、睡眠リズムの乱れは、今のコロナ禍で私たちが注意しなくてはならない免疫面でのリスクを高める危険性もはらむ。「睡眠の質の低下は、体内に侵入した病原体を排除するNK細胞の活性を低くしたり、多様な疾患の原因となるTNF-αなどの炎症物質を増やす」(中田教授)。

42人の健康な男性を午後10時から午前3時まで不眠状態にしたところ、NK細胞の活性が低下し、病原体を排除する抗体を作るT細胞の働きを助けるIL-2(インターロイキン2)の産生も抑制された。睡眠を回復させた翌日にNK活性は元に戻ったが、IL-2産生は抑制されたままだった[5]。

動物実験によって、人工的に体内時計を乱したラットでは炎症物質のTNF-αが増えることも確認されている(図)。

体内時計の乱れを引き起こしたラットにLPS(炎症を誘導する物質)を投与した。その結果、体内時計の乱れたラットの血中では対照群のラットよりも炎症物質TNF-αが有意に多く産生された。(データ:J Biol Rhythms. 2015 Aug;30(4):318-30. )

このように、睡眠の乱れは免疫系の乱れをも招くおそれがある。

実際に、睡眠に問題があると、風邪にかかりやすくなったり、新型コロナウイルス感染症の重症化とも関わるという報告がある。

●社会的時差ぼけが2時間以上あると病欠が増え、風邪にかかりやすくなる

6万9519人の日本人従業員(平均年齢40歳)を対象に2008年から2012年まで行った横断調査。社会的時差ぼけが2時間以上ある群は、社会的時差ぼけのない群と比較して病欠は1.15倍、風邪罹患は1.23倍だった[6]。

●睡眠不足は新型コロナ感染症の重症化と関連する

新型コロナウイルス感染者164人と非感染者188人を対象に生活習慣との関連をさかのぼって調べた研究では、1日の平均睡眠時間が短い人ほど重症度が高く、肺の損傷度も高い傾向があったという[7]。

睡眠が悪化すると、そのリスクは全身に及び、肥満やメンタルにも表れることが分かっている。日本人の労働者を対象にした研究で、社会的時差ぼけが2時間以上になるとメタボリック・シンドローム罹患リスクが約2倍になること[8]、抑うつ感が高くなること[9]が示されている。「睡眠に問題がある人は、朝食を抜く、早食い、夜遅く食べるといった食生活の偏りを伴うことが多く、肥満やメタボ悪化につながる。また、抑うつ感だけでなく、仕事のモチベーションも下がって精神的ストレスが生じると、それによっても免疫は低下する」(中田教授)。

[5]FASEB J. 1996 Apr;10(5):643-53.

[6]Sleep Med.;64 (2019)S274-275

[7]Nat Sci Sleep. 2020 Nov 12;12:999-1007.

[8]Sleep Med. 2018 Nov;51:53-58.

[9]Sleep. 2020 Jan 13;43(1):zsz204.

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