長引くコロナ禍の中、メリハリをつけにくいリモートワークによって睡眠不足になったり、睡眠リズムが乱れたりしていないだろうか。睡眠不足だけでなく、平日と週末の睡眠リズムが乱れる「社会的時差ぼけ」によっても睡眠の質が低下し、免疫力に悪影響をもたらすことが分かってきている。感染症への守りを固めるためにも、睡眠を見直し、できることから改善してみよう。
コロナ禍のリモートワークで、睡眠の乱れが進行
長引くコロナ禍によって、生活リズムが大幅に変わったという人も多いだろう。リモートワークで外出が減って活動量が減少、仕事に区切りがつけにくくなって生活にメリハリがなくなる。こうした生活リズムの乱れや先行きの見えない不安感で睡眠の質が落ちた、という人はいないだろうか。
そもそも日本人の睡眠時間はコロナ禍以前から一貫して減少してきた。NHKが5年ごとに実施している「国民生活時間調査」によると、睡眠時間は調査開始以来減少し続けている(グラフ)。「コロナ禍によって睡眠の問題に拍車がかかり、健康リスクが高くなっているおそれがある」と、睡眠が心身に与える影響を研究する国際医療福祉大学大学院の中田光紀教授は指摘する。世界6カ国、25~65歳の381人を対象に行われたロックダウン前後の睡眠の変化に関する研究において、パンデミックで心配度が高まるほど睡眠の質が悪化したという報告もある[1]。
世界の睡眠研究者は、コロナ禍が続く中で睡眠が乱れる人が増え、それによって健康被害が広がっている、と声を上げている。
私たちが毎日ほぼ一定の時間に眠くなり目が覚めるのは「体内時計」があるおかげだ。体内時計は、睡眠と覚醒、体温、ホルモン分泌などの一日の変動を制御するシステムだが、パンデミックによる不安、睡眠・食生活の乱れはこの体内時計を狂わせる。すると、体内時計と連動して動く免疫機能が乱れ、感染症罹患リスクが高まったり、うつ病や生活習慣病が増加したりするリスクが高まる。こう指摘する研究が、米国、欧州、カナダ、ブラジルなど世界中から次々に発表されているのだ。
研究者たちは、規則的な睡眠・食習慣といった生活リズムを守る行動をとることは、ソーシャル・ディスタンスと並んで新型コロナ感染症の蔓延を抑えるのに役立つと口をそろえる[2]。
さて、ここでもう一度、日本人の睡眠時間の推移の図に戻っていただきたい。平日に比べて週末の睡眠時間が多くなっていることがわかる。実は、睡眠時間はさほど不足していないはずという人でも、平日の睡眠不足を休日に寝だめすることによって解消している、ということであれば安心はできない。ことに、週末しっかり寝たつもりでも、月曜日にだるさや疲労感、眠気を感じるようなら問題だ。「社会的時差ぼけ(Social jetlag)」が起きている可能性がある(図)。
図のように、平日6時間、週末8時間、と週末多めに眠れているようでも、睡眠の中央時刻には3時間のずれがあるのが分かる。この3時間を「社会的時差ぼけ」と呼ぶ。2019年に日本人3708人を調査した研究では、社会的時差ぼけが1時間以上ある人の割合は40%、20代では61%、30代では53%と若い年代ほど時差が大きくなった[3]。
社会的時差ぼけが起きると、体内時計がずれる。体は朝、光を浴びることによって時計をリセットするが、週末に寝だめすると午前に光を浴びる機会を逃す。週明けに疲労感がたまり、眠りたい時間に眠れなくなるという現象が起こる。
これまで、夜間勤務が入るシフト勤務者たちで体内時計が乱れ、うつ病、メタボリックシンドローム、心筋梗塞、脳卒中、がんなどの疾患リスクが高まることなどが指摘されてきた。「実は日勤労働者においても、社会的時差ぼけを原因とする心身の不調が起きていることが分かってきた。コロナ禍によるリモートワークにより自宅で夜遅くまで作業をしたり、また定時に出社する日数が減っているため、平日でも週末のような睡眠をとるなど、社会的時差ぼけが生じている人が増えている可能性がある」(中田教授)。
パイロットを対象とした試験では、1時間の体内時計のずれを修正するには約1日必要と報告されている[4]。そして、すぐに解消できないずれは心身に影響を与える。
[1]Biochem Pharmacol. 2021 Feb 10 : 114463.
[2]Rev Assoc Med Bras (1992). 2020 Sep 21;66Suppl 2(Suppl 2):143-147.
[3]Sleep and Biological Rhythms. 2019; 17:417-422.
[4]Aviat Space Environ Med. 1986 Dec;57(12 Pt2):B53-64.