先生ではなく「さん」で呼ぼう 人権意識は日常から工藤勇一・横浜創英中学・高校校長

工藤勇一・横浜創英中学・高校校長
工藤勇一・横浜創英中学・高校校長
宿題や定期テスト、担任制の廃止など数々の学校の当たり前をやめて、教育改革に取り組んできた工藤勇一・横浜創英中学・高校校長。「校長ブログ」の第5回は、差別などの人権意識問題について、工藤氏の経験や独自の視点を踏まえてお届けします。
(質問を募集します。詳細は文末ご覧ください)

東京五輪・パラリンピック大会組織委員会会長だった森喜朗さんが女性蔑視発言問題で国内外から批判を受け、辞任に追い込まれました。差別問題で私が思い起こすのが米大リーグで活躍している投手のダルビッシュ有さんだ。

「パーフェクトな人間など誰もいない。彼もそうだし、あなたも、そして僕もそうだ。彼がやったことは決して正しいことではないが、僕は彼を非難するよりも、学ぶように努力すべきだと思う。ここから何かを得ることができれば、人類にとって大きな一歩だ。(後略)」。   

2017年10月、ワールドシリーズ、ドジャーズ対アストロズ、第3戦、ドジャーズの投手だったダルビッシュ選手はアストロズの内野手ユリエスキ・グリエル選手にホームランを打たれた。ダイヤモンドを1周し、ベンチに戻ったグリエル選手が、目尻を指で横に引っ張りながら、スペイン語でアジア人の蔑称を口にした行為が大問題となった。

上記は、ダルビッシュさんが、試合後ツイッターに英語で投稿したコメントです。彼の対応に感心し、当時、千代田区立麹町中学校長だった私は全校集会でダルビッシュさんのこの話を例に人権問題について語りました。差別問題に対して世界のスポーツ界は非常に厳しい。実際、グリエル選手は来季5試合の出場停止処分を受けているし、NBAなどでは、オーナーが永久追放された例もある。その理由について考えてもらった後、話の終わりに次のように私は付け加えました。

「人を差別する心は、誰も簡単に消せるものではないかもしれない。また、消せたとしてもいつかまた生まれてきてしまうのかもしれない。長く生きた私でさえも自信を持って差別する心がないと言えないと思う。でも、ある行為が誰かにとっては差別になるということを知識として知ることさえできれば、そうした行為は誰でも止めることができる。みんなにもそうあってほしいし、私もそうありたい。人間は成長できるすてきな生き物だ」。

差別というか、人権の問題は簡単ではない。特に日本語は尊敬語が多く、本人はそう意識しなくても自然と目上、目下の上下関係をつくりがちです。歴史的に日本は縦社会でフラットな社会ではありませんでした。今も政治家や医師、弁護士、そして教師は「先生」と呼ばれ、互いに「先生」と呼び合うことも少なくありません。教師も生徒に対して「先生はね」と自分のことをいう人もいますが、私は新米教師の頃からこれに違和感を覚えていました。