マイナーチェンジした「BMW 5シリーズ」のトップモデル「M5コンペティション」に試乗した。625PSのV8ツインターボに4WDシャシーが組み合わされた歴代最高性能を誇るスーパーサルーンは、いったいどれほどの進化を遂げたのか。
最上級の上を行く
1972年の初代モデル誕生から、間もなく半世紀。BMWのモデルラインアップの中にあって特に長い歴史を刻む5シリーズは、現行型もその登場から4年半の時が過ぎようとしている。
そうしたタイミングで内外装の一部を化粧直しするとともに、ハンズオフ機能付きの渋滞時運転支援システムや最新のコネクティビティー機能、iPhoneを活用したデジタルキーを標準で採用するなど、モデルライフ半ばと思われる大幅なマイナーチェンジが2020年秋に行われた。そして、そんなベースモデルのアップデートを受けて、やはりさまざまなリファインの手が加えられることになったのが、シリーズのフラッグシップたる「M5」の最新モデルである。
今回テストドライブを行ったM5は、ベーシックな仕様に対して「よりアグレッシブなスポーツ走行を想定した」というコンペティションと名づけられたグレード。強化型の専用エンジンマウントを介して搭載されるツインターボの4.4リッターV型8気筒は、こちらも専用チューニングが施されたことで、ベースモデルに対して25PSが上乗せされた625PS(!)という最高出力を同じ6000rpmで発生する高性能ユニットだ。
ハイグロスブラック仕上げのキドニーグリルやテールパイプ、専用デザインのシートベルトを採用するなど見た目の差異化が図られると同時に、カーボンセラミックブレーキやカーボンエンジンカバー、フロントマッサージシートなど、いかにもエクスクルーシブな内容のアイテムがオプション設定されているのも、このグレードのみのトピック。
要は、「最上級の上を行くモデル」と紹介できるのが、コンペティションの名が加えられたM5である。

初代からは隔世の感
ほぼ5mという全長に1.9mを超える全幅──最新のM5はパーソナルカーとしてはもはや上限に近いとも思える、そんなサイズのスーパーセダンでもある。2代目5シリーズをベースに生み出された初代M5の心臓が3.5リッターの自然吸気直列6気筒で、その最高出力も300PSに届かないという、最新モデルの“半分以下”にすぎなかったことを思えば、35年後の現在に生きるM5コンペティションとの関係は、「名称は受け継ぎつつも、もはや血縁関係はとても薄い」と紹介すべきものかもしれない。そもそも、当時の5シリーズが“5ナンバーサイズ”だったと知れば、「隔世の感とはこのことか」と納得するしかないだろう。
さらにM5として6代目となる現行型では、歴代モデルで初となる4WDシャシーが採用されていることもトピック。たとえ同様に600PS級を誇るエンジンであっても、それが自然吸気によるものか過給機が与えられたものかで、大きく異なるのがトルクの値。実際、先代を一気に70N・mも上回る最新モデルの750N・mという最大トルク値は、常識的に考えてもはや「リアの2輪のみでコントロール可能な範囲を大きく逸脱している」と判断せざるを得ないスペックだ。