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コロナと集中豪雨、2つの危機を乗り越え 八鹿酒造

世界で急増!日本酒LOVE(30)

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NIKKEI STYLE

今なお続く新型コロナウイルス禍に加え、昨年7月、九州地方などを襲った集中豪雨被害のダブルパンチに見舞われた酒蔵がある。湯布院で知られる温泉地・大分県の南西部、九重町で酒造りを営む「八鹿(やつしか)酒造」がそれだ。これまで焼酎人気に押された時も、ピンチをチャンスに変えて、危機を乗り切ってきた。今回もその経験を生かし、ポジティブ思考で直面する課題にしっかりと挑んでいる。

八鹿酒造は1864年創業で、現在は六代目の麻生益直氏が経営している。全国酒類醤(しょう)油品評会で立て続けに優秀賞に輝くなど銘酒の蔵として知られてきた。

六代目の代になった1985年代(昭和60年代)は、全国的に清酒の消費量が下降気味となる一方、本格焼酎ブームが到来した。このピンチを、チャンスと捉え、銀座で粋に遊ぶ本物を知る大人たちのために洋スタイルの焼酎「銀座のすずめ」を考案。大ヒットさせたのが麻生社長である。現在も蔵の生産量の8割は焼酎が占め、残りが日本酒という九州らしい「焼酎兼業の蔵」だ。

八鹿酒造は息子で現在、専務の益寛さんと二人三脚で長年、酒造りに精を出してきたが、2020年はさすがに未曾有の一年だったようだ。「昨年来のコロナ禍で昨年4月と5月の売り上げが大打撃を受けました。地元の温泉宿や飲食店などへ卸している業務用酒と、ギフト用商品が見事にダメージを受けたからです」と麻生専務。

人気焼酎「銀座のすずめ」は全国展開していた分、落ち幅も大きく、日本酒の売り上げも著しく減少した。唯一、前年の売り上げを超えたのが、地元で愛されている「なしか!」。家飲みに適した20度900mlパック(税込み872円)などの麦焼酎で、持ち帰りやすいサイズや、後処理も便利なパック製品といった点が重宝されたようだ。

そこに昨年7月、熊本県を中心に九州地方などを襲った集中豪雨被害が追い打ちをかけた。大分県内の大小多くの河川も氾濫し、各地で洪水や土砂災害が発生。八鹿酒造も仕込み蔵などが泥だらけになり、一時停電も。コロナ感染予防対策にも配慮しながら、社員や地元のボランティアたちが連日、泥かき作業に従事、建物などへの被害総額は数億円以上に上ったという。

「一番ショックだったのがバーボンの樫樽です。その中には15年ものや18年ものなど熟成中の焼酎が入っており、製品化した場合、1樽で500万円もするものまで浸水してしまいました。全て廃棄するしかなく、痛恨の極み」と麻生専務は唇をかむ。

それでも、経営再建に向けて一刻の猶予はない。連日、筋肉痛になりながら泥などを撤去し、焼酎の瓶詰め工場を稼働させたのは、豪雨被害から1週間後のこと。「ただでさえコロナ禍で経営が厳しいのに、お中元シーズン前に欠品なんてありえない。意地でも出荷するぞ」と奮い立ち、社員一丸となり、生産を最優先させたという。

昨年11月時点では前年同月対比94.6%の売り上げまで戻ったが、コロナ前の売り上げにいまだ達していないのが現状という。

コロナ禍と豪雨のダブル被害を受けた八鹿酒造だが、麻生専務は「こういう時はドーンと構えて、ポジティブシンキングがいいんです。大したことねっちゃ、しゃあねーねぇ(仕方ないね)」と笑顔。その強さはどこからくるのかーー。

麻生専務は実はこれまでも、熊本地震や西日本豪雨災害などさまざまな被災地でボランティア活動にいそしんできた。「ホコリまみれになっても5日間、お風呂に入れず、トイレもない被災地もありました。それに比べたら私たちはトイレもあって、停電も1日だけで、断水もしなかった。普段10分で行ける道路が30分かかったが、通れるだけまし。各地の大災害を思い出し、一連の被害はぜんぜん楽勝と思えてきたのです」と麻生専務は振り返る。

八鹿酒造は2013年に安全を確保する管理手法であるHACCP(ハサップ)を、2018年にはISO22000(国際標準化機構が定めた食品安全の規格)を取得している。この二つの認証取得も豪雨被害から短期で復旧する上で、大きな要因となった。安全・衛生面の訓練を徹底してきたおかげで、各持ち場の担当者がどうすればきれいに掃除できるか、どんな手順を踏めば効率よく運転再開できるか、しっかりと考え、自発的に動いてくれたから」というのだ。「常日ごろの努力や真摯な取り組みが、いざという時に役立つということを改めて認識した」(麻生専務)そうだ。

今なお続くコロナ禍は国内販売はもちろん、海外輸出にも影響を及ぼしている。八鹿酒造は約27年前から、「銀座のすずめ」と日本酒を米国・カリフォルニアに向けて輸出を開始。海外で飲まれる日本の焼酎の草分け的存在となっている。

米国に留学経験もある麻生専務は、「米国は"西(海岸)は焼酎、東は日本酒"。同じ国でも東と西では商品の売れ筋が違う。それぞれ時間をかけて開拓してきました」と話す。現在では世界26カ国・地域に焼酎と日本酒を輸出し、総売り上げの約5%を占める。

焼酎の海外輸出に関しては近年、後発組との競争が激化した結果、輸出量はピーク時の3分の2ほどにとどまる。一方、日本酒は米国やアジアなどで年々輸出が拡大しており、中でも成長著しいのが中国・上海と、ベトナムという。「ベトナムの居酒屋では焼酎も日本酒も人気です。コロナがなければね」と麻生専務。

コロナ禍にも関わらず、八鹿酒造の欧州への輸出量は少しずつ伸びている。先日はノルウェーから300ケース(1ケースあたり300 ml×12本入り)の注文が1年で3回も入った。「うちの酒はどちらかというと、しっかりと味があるタイプ。九州らしく複雑で濃厚系。特徴がわかりやすい日本酒は、欧州では特に受けがいい」と麻生専務は分析し、欧州の市場に期待を寄せる。

本来なら今ごろ、麻生専務は欧州輸出拡大を狙い英国にウイスキー蒸留の勉強に出かけ、フランスでも営業計画を立てていた。コロナ禍で計画は保留になっているが、コロナが落ち着いたら再スタートする予定だ。米国や中国(上海)にはすでに駐在員も配備し、成長著しい東南アジア諸国やオーストラリア、ニュージーランドなども有望なエリアと捉えている。

麻生専務は今、2020年を改めてこう振り返る。「商売的にはきつかったけれど、ダブルで被害を受けて、逆に人の温かさにたっぷり触れられた1年でもあった。心配してくれる手紙やメールにいつも励まされて、心はむしろ豊かだった。そんな人の温かさを感じ、自分たちが手がけるお酒の価値を再確認できました」

"酒造りは人づくり"と言われるが、酒は人の喜びを倍増させ、悲しみを半減させるものでもあるはずだ。時に、人間関係の潤滑油になったり、人の人生に寄り添ったり。「自分は、人の人生に寄り添える仕事をしている、こんな誇らしい仕事はないのだと一連の危機に見舞われ、今回改めて気づくことができました」。笑顔でそう話し、麻生専務は前を向く。

八鹿酒造は目下、昨年の巻き返しを図っている。これまで飲食店を中心に卸してきたこの時期限定の出来たてのお酒を、一般向けにも販売を開始。今年3月10日まで、「蔵元直送便」と謳い、大吟醸酒の生原酒やスパークリング受賞酒「八鹿 awa sake 白虹」の限定ラベルなど720ml・4本セットを蔵元直送の特別価格で販売中だ。ダブル被害を通して気づいた"酒本来の価値"をさらに高めていくために奮闘を続ける。

(国際きき酒師&サケ・エキスパート 滝口智子)

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