ベゾス氏と同じ未来を見た リクルート江副氏の光と闇八重洲ブックセンター本店

入り口脇の面陳列棚にパネルとともに展示する(八重洲ブックセンター本店)
入り口脇の面陳列棚にパネルとともに展示する(八重洲ブックセンター本店)

ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は定点観測している八重洲ブックセンター本店だ。緊急事態宣言は続いているが、東京駅周辺の人の流れは2月に入って回復しつつあるという。ビジネス書の動きもそれにつられて、新刊への反応が出てきた。そんな中、書店員が注目したのは起業家という切り口でリクルート創業者の軌跡をたどったノンフィクションだった。

「失われた30年」問い直す

その本は大西康之『起業の天才!』(東洋経済新報社)。副題には「江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男」とある。江副氏を取り上げたノンフィクションは2017年末、リクルートの元社員2人が共著で出した『江副浩正』(日経BP)が記憶に新しい。江副氏が持っていた「私たちを鼓舞し、思考と行動に駆り立てる何か」を元社員の立場から探った決定版ともいえる評伝だ。それから3年、日本経済新聞や日経ビジネスで長く企業を取材してきた経済ジャーナリストがあえてその対象に挑んだのは、江副氏をより広い視野の中に位置づけ、「失われた30年」を過ごすことになる日本経済の歩みが、どこでどう間違えたのかを改めて問い直すためだ。

著者はそのために、印象的なエピソードから本書を書き起こす。1987年のリクルートによる米国のベンチャー企業、ファイテルの買収だ。このベンチャーはインターネットが勃興する以前のこの時期に国際株取引のオンライン決済を手がけていた会社で、その出資交渉に来ていたのが大学を出たてのジェフ・ベゾスだったというのだ。

ベゾスは少し後にアマゾン・ドット・コムを立ち上げ、ネット時代のイノベーションの中心的存在となる。「ファイテルは創業まもないベンチャーでベゾスはそこの平社員。江副はそのファイテルを買収した会社のトップ。立場は天と地ほども違ったが、ふたりは間違いなく同じ未来を見ていた」と著者は書く。「江副浩正の生涯をたどることで、戦後日本が生んだ稀代の起業家があのとき見ていた景色、そして『もし』この男の夢が実現していれば、どんな日本になってたのかを考えてみたい」。これが著者の執筆意図だ。

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