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フレンチ創作料理もあるウナギの老舗 東京・小石川

2021/3/4
「わたべ」のウナギの最大の特徴は軟らかく、ふんわりと溶けていく肉厚の身
「わたべ」のウナギの最大の特徴は軟らかく、ふんわりと溶けていく肉厚の身

下町情緒と新しい文化が交差する、東京都文京区小石川。こんにゃく閻魔(えんま)で知られる「源覚寺」の門前町に、遠方からも目指す人がいるウナギ店がある。

創業70余年の「わたべ」だ。地下鉄・後楽園駅、春日駅からほど近いマンションの1階に、どっしりと構えている。

「老舗」の魅力だけでは語れない「わたべ」。「ミシュランガイド東京」に2018年から3年連続で、ビブグルマンの店として掲載されている名店だ。

Summary
1. 1947年創業の老舗。3代目兄弟が伝統を守りつつ、新感覚でのれんを継ぐ
2. 「うな丼」「うな重」「蒲(かば)焼き」に加え、フレンチ仕込みの創作料理
3. テイクアウト、デリバリー、フードトラック販売も

ゆったりしたしつらえの店内は30席ほど。おひとり様も家族連れも利用しやすく、接待にふさわしい個室も用意されている。日本の古き良き伝統工芸品が随所にさりげなく飾られて、親しみやすさと格調の高さが共存。くつろぎの時間が静かに漂っている。また、現在はフードトラック販売やテイクアウトも実施中。そんな「わたべ」の魅力を紹介しよう。

「わたべ」の前身は地域密着の繁盛店だった鮮魚店・わたべにさかのぼる。創業者の祖父・渡部忠重さんはウナギ問屋で働いていた経験があり、鮮魚はもとより、店先で焼くウナギが看板だった。門前町にそれはそれはいい香りを漂わせていたことだろう。

ウナギ専門の飲食店になったのは18年ほど前。現在はフランス料理を経験した3代目、料理長の渡部幸和さんが、ウナギを使って創造する料理が、「わたべ」のオリジナリティーとなっている。

幸和さんは学生時代にフランス料理店でアルバイトをしたのがきっかけで料理の世界へ。都内のレストランをはじめ、宇都宮市の「オトワレストラン」、西麻布「エキュレ」(現在は閉店)といった名だたるフランス料理店で経験を積み、ヨーロッパへ。

フランス、スペインでさらに腕に磨きをかけた。バスク地方では薪焼きの店にて研修。ダイナミックな炭火料理の体験も役立っている。

「わたべ」のウナギの最大の特徴は驚くほど軟らかく、ふんわりと口溶けていく肉厚の身だ。

「お客さんの好みを探ってみたら、軟らかいウナギを求めていらっしゃるのだと確信したのです」と、弟の善隆さんは言う。

調理場が活気づくのは朝7時30分。幸和さんがウナギを割き、先代の父・一夫さんが串を打つ。串打ちの後、白入れ(下焼き)をして、「骨抜き」を行う。スタッフ総出で1尾1尾、ていねいに骨を抜くのだが、口当たりよくふわっとした身はこの作業なしにかなわない。

「蒸し」は注文を聞いてから。どこまでも軟らかさを追求するので、蒸し時間も一般的な時間より長い。

「白入れ(下焼き)」「骨抜き」「蒸し」の後に行う「本焼き」

いよいよ「本焼き」。この軟らかなウナギを焼き上げるには相当な技術が必要だ。

「ウナギ屋で修業していないので、僕なりのセオリーで焼いています」と話す幸和さん。身を崩さぬよう、うちわであおぐ時もゆっくり、やさしく。 一瞬たりとも目を離さないようすはウナギと会話をしているようにさえ見える。

肝心かなめのたれは祖父が開いた鮮魚店・わたべの店先で焼いていた時代から、継ぎ足し継ぎ足し育んできた財産だ。陶器の甕(かめ)の中で、ゆらゆらとオーラを放っている。

さっとくぐらせ、再び炭火の上へ。古典落語のネタのごとく、煙とともに漂う甘じょっぱい香りだけでご飯が進みそうだ。

香りを封じ込めたお重は会津塗。モダンな絵柄のふたを開くと……

角々まで敷き詰められたご飯の上にはかけ布団のようにふわりとジャストサイズのウナギ。箸を持ち、口に運ぶ前からほおが落ちるようだ。

甘みと辛みが互いを引き立て合うたれ。軟らかさが半端ない香ばしいウナギ。縁の下の力持ちのような白米。これらが三位一体となり、五感を喜ばせてくれる。

ご飯について善隆さんは「さっぱりとしていて粘りけの少ないコメを選んでいます」と説明するが、肉厚のウナギとの相性の良さを感じるのは一粒一粒に勢いがあるからだろう。

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