飾らぬ自分でリスナー獲得 ネット音声配信に挑戦した
インターネット上のプラットフォームで自由にトークを楽しむ、音声配信の世界が広がる。どんな準備をすればいいのか。運営企業や人気コンテンツを作る人たちに聞いて挑戦した。
「ツイッターなどを楽しむように個人が気軽に音声配信できるようになった」。2016年に音声配信サービスを開始したVoicy(ボイシー、東京・渋谷)代表の緒方憲太郎さんは解説する。
ネットにラジオ番組などを配信する「ポッドキャスト」はあるが、サーバーの用意などが壁となり、個人には難しかった。だが、スマートフォン上のアプリで収録から配信までできるプラットフォームを提供する企業が現れた。
コンテンツ投稿プラットフォームを運営し、日本経済新聞社が出資するnote(東京・港)など既存のメディアも音声配信に対応、ツイッターも試験的に始めた。スマートスピーカーなどの登場に加え、コロナ禍により自宅で「ながら聞き」する時間が増え、人気が一気に高まった。
まずは、音声配信を始める際に気をつけるべきことを、人気配信者に聞いた。
stand.fm(スタンドエフエム)で音声配信デビューし、Voicyで番組を始めたエージェントゆき(綾瀬友希)さんは「コンテンツの内容や雰囲気が自分に合っているかを確かめて、配信プラットフォームを決めるのが第一歩」と話す。
マイクに向かって話そうとすると緊張する。言葉が切れるとやたらに「えー」と言ってしまう。途中で頭が真っ白……。どうすればいいのか。
エージェントゆきさんは「収録前に思考のプロセスをマインドマップにまとめるのがお勧め。回数を重ねるうちに内容も整理でき、自然に話せるようになります」と話す。
Voicyで番組を持つ声優の平野文さんは「見えや受けようという気持ちを捨て、素直に話すことから始めましょう。詰まったら『頭が真っ白になりました。ちょっと待ってくださいね』と言えばいい。沈黙はかえっていい感じの間になります」とアドバイスする。
「マイクにこだわり音声編集ソフトを使って、時間をかけてコンテンツを作り込むのも楽しい」というのは、「音声配信の始め方2021」(Kindle版)を著した、音声配信歴6年の杉本ゆみさん。「作り込んだコンテンツの配信には、複数のプラットフォームに登録できる世界標準の規格であるポッドキャストがお勧め」と語る。
コンテンツ作りに挑んだ。一つはRadiotalk(ラジオトーク、東京・港)のアプリを使って、高校の後輩の大学生と「世代間断絶トーク!」を始めてみた。
それぞれが自宅にいるのだが、アプリ上で対話しながら収録できる。12分で打ち切りになるので、実際の番組を収録しているような気分になる。回を重ね、普段着のしゃべりができるようになった。
もう一つは作り込んだコンテンツにも挑戦した。一人語りよりも記者として長年行ってきたインタビューの方がしっくりいく。高校の先輩に、ビデオ会議システムの「Zoom」を使ってインタビューした。
音声だけを切り出して、無料のソフト「Audacity」で7回分に編集。まず外部音声も入力できるstand.fmに配信した。次に、音楽配信のスポティファイ・テクノロジー(スウェーデン)が提供するポッドキャスト作成ツール「Anchor(アンカー)」で番組を作成。登録すると、スポティファイのほか、Amazonミュージックやアップルポッドキャストなどにも配信できた。
リスナーはわずかだが、配信プラットフォームに自分のコンテンツが登録されると、ラジオパーソナリティーになった気分だ。いいコンテンツと固定ファンを作りたいと、欲も出てきた。
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広告市場も拡大予想
ネット上の音声配信は成長途上にある。配信プラットフォームが増えたうえ、「スポティファイやユーチューブが音声広告を始めるなどで、広告市場は拡大している」とオトナル(東京・中央)社長の八木太亮さん。
調査会社デジタルインファクト(東京・文京)によると、2020年のデジタル音声広告市場は推定16億円。2025年には420億円規模に達すると予想する。広告配信は手掛けていないが、音声SNSの「Clubhouse(クラブハウス)」は会員を急拡大。ツイッターも同様のサービス「Spaces(スぺ―ス)」を米国で実験中。音声配信の市場には追い風が吹いている。
(相川浩之)
[NIKKEIプラス1 2021年2月20日付]
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